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どんな手でも使いますよ17

 小会議室に通された三人が立ったまま汐野と向かい合う。  何も乗ってない丸テーブルと、それを囲う椅子。  無機質な白い壁に、ホワイトボード。  一面ガラスの壁からは、東京の夜景が見下ろせた。 「さてと。秋倉はんのとこはあっちのやり方でやっとったけど、うちはうちでやらしてもらうで。二時間後の夜十時に、この部屋から出て右に曲がった突き当たりの部屋に行きいや。俺は相席出来んから、三人で行けばええんちゃう」 「鵜亥はこの来訪を知ってるのか」 「あったりまえやんか。ま、篠田はんだけしか名前は上がっとらんかったけどな。じゃ、二時間後に鍵はアンロックにしとくで」  そう早口で言って汐野は出て行った。  扉が閉まると同時に、重厚な施錠音が響いた。  戒が一瞬汐野を引き留めかけたが、深く息を吐いて椅子の一つに腰かけた。 「おい、これでいいのか」  問いかけた篠田は窓から外を見下ろしながら肩を震わせていた。 「おい」 「っく、くくく。あー、いいんだ。聞いただろ、あいつの言葉」  余裕と確信の滲んだ声に、戒も巧も顔を上げる。 「俺しか来ないと思ってる。それが重要だ。あの汐野とかが報告することも多分ないだろう。あいつは上司の危機を面白がってるからな。これで交渉の勝機が見えてきた」  そう言って篠田も椅子の一つに手を掛け、腰を下ろす。  腕時計を一瞥すると、巧を見て一言。 「時間は余りある。鵜亥の元を離れてからの生活でも聞かせてくれ」  きょとんとした二人に微笑む。 「もう長いことホストの話しか知らないんだ。なんでもいい」 「こんな時にそんな……」 「こんな時だから、生の話が聞けるんだ」  戒と巧は顔を見合わせて、それから大きく溜息を吐いた。 「っふ」 「っくく……笑うなや」 「お前も笑ってるやろ」 「だっておかしいわこんなん。あの鵜亥のビルに来て初対面のホストのおっさんと過去話やで」 「まだ三十五だ」 「おっさんやんか」 「おい、巧。あんまり笑わすな」  妙に和やかな空気が更に頬を緩ませる。  このメンツが、この状況が、この場所が、何もかもが奇妙だった。  だがそれで巧の顔から恐怖が消えたことを、内心戒はほっとしていた。  連れてくること自体考えられなかったが、もしかしたらトラウマの克服になるかもしれない。  過去に捕らわれなくて済むようになるかもしれない。  そんな期待もあった。

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