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郷に入ればホストに従え16

「どうした?」  扉のすぐそばに篠田が立っていた。  予想外の人物に怯む。 「いえ……ただ一服してただけで」 「そんなにボロボロになって?」  俺は焦って襟元を寄せる。  見られたか。  篠田は息を吐いて、腕組みをした。 「誰にやられたかは聞かない。仕返しもするなとは言わない。だが、相手が非道に走っても……」  頭をそっと上げられる。 「お前はホストとして戦え」  カラコンの入った翠の目。  篠田はその目を辛そうに歪めていた。  心配してるのか。  ただ人が欠けて困るからか。  まだ、その真意は掴めない。 「酒は飲めそうか?」 「……一応」 「歩けるか?」  「大丈夫です」 「顔洗って整えて来い」 「はい」  トイレの鏡で傷口を確認する。  唇の端。  米噛み。  痛い。  体は…… 「…っ…」  肋骨。  折れてないよな。  それから鎖骨の火傷。  意外に目立たない。  黒くなってはいるけど。  水で軽く冷やすが、激痛にそれ以上出来なくなった。  絆創膏が欲しい。  服が擦れるだけで痛いからだ。  医務室なんてないしな。  事務室に行って篠田に頼むかな。  ガチャ。  しまった。  急いで傷口を隠す。 「瑞希」 「……類沢、さん」  彼は下から上まで眺めて、頭を手で押さえた。 「何があったの?」 「何も」 「いなくなってから探してたんだよね」  心配かけたんだよ、お前。  そんな口調。  優しいのか厳しいのか。  この人もわからない。  瀬々のような一面だってありうる。  そうだろう。 「怪我、隠せてない。そのまま客の前に出たら迷惑かける」 「…」 「ほら」  類沢はポケットから大きめの絆創膏を取り出した。 「後で病院行くよ」 「そこまでは」 「膿んだらどうする」  鋭く言ったから、頷くしかなかった。 「今晩は無茶するな」 「……はい」  類沢は俺の顔をじっと見て、切ない表情を浮かべた。 「化粧、落ちたね」  仕方がない。  でも悔しい。  今朝の時間がもう懐かしい。 「髪もです」 「それさ、後ろだけ下ろして…」  鏡を見ながら彼が直す。 「これなら良いよ」  鏡越しに目が合う。  なんだ。  気恥ずかしい。  ふっと笑って、類沢は去って行った。  礼をしてから鏡を見返す。  悪くない。

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