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あの店に彼がいるそうです04

「おれ結構みぃずき好きだったんだよ」  大で頼んだ日本酒を注がれる。  俺は御猪口を持ってそれを受け取った。  名前も憶えていなかったホスト達からも労いと乾杯を貰った。 「瑞希さんが……いなくなっちゃうなんて……っう……おれ、おれ絶対……瑞希さんと……うえっ、もっとずっと……」 「泣くなよ、三嗣。こっちまで……」 「一兄まで泣いてどうすんの」 「なんか、みんな本当にありがとう」  ティッシュを何枚も渡す。  泣いて悲しむ人がいるなんて。  想像もしなかった。  酒のせいもあるだろうけど。 「やっぱ大学戻んの?」  アカが火照った顔をして尋ねる。  みんな店の後によく飲めるな。 「とりあえずはそうしようかなって思ってる。休学期間はもう少し先だから、二か月くらい休みだけどな」 「じゃあ二か月働けばいいのに。なにすんの」 「決めてない」  これは嘘。  半分嘘。 「探しに行くの?」  酒を持つ手が止まる。  流石アカ。  誰もが避けてたことも真っすぐ訊いてくる。 「うん……どうだろ。なんとなく、いそうな場所には行くかも」 「会えたらいいね。おれも会いたいなあ。なあんか物足りないんだよね。あの完璧な男みたいなのが店にいないとさ。あのVIP空間も虚しいっていうか? おれじゃまだ埋められない。あの人ってさ、まさにシエラそのものだったっつうの。すげー存在だったよな」  二か月ちょいの俺には何も言えない。  でも、確かにそう思った。 「アカさんがそのうちそうなってくださいよ!」 「アカさん最高!」 「我らがトップ!」  後ろからビール瓶を持った男たちがどやどやと。  みんな赤ら顔で。 「お前らが作り上げるんだよ!」  それを嬉しそうにアカが相手する。  十数人でわいわい飲むのは、八人集も参加したあの時とは違って、どこまでも快適で、ずっとここにいたいって思わせた。  でも、いられない。  きっとこれが、最期の彼等との気兼ねない飲み。  同じ店の仕事仲間として。  誰もが笑って。  また考える。  何度だって。  なんで、いねえの。  ここに。  なんで。  なあ。  苦いお茶でもいいからさ。  辛いワインでもいいからさ。  一緒に飲みたい。  類沢さん。 「みぃずきに乾杯!」 「アカさん一位に乾杯!」 「シエラに乾杯!」  曖昧な記憶を残して飲み会が終わる。

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