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あの店に彼がいるそうです35

 栗鷹悠と話していた篠田は、螺旋階段から降りてくる影を見上げて、手に持っていた新しい仮面を床に跳ねさせた。  その音に鏡子が駆けつけ、後ろから一夜と晃も早足で集まる。 「勝手にVIPルーム案内するな」 「すみません」 「お前も来たなら連絡入れろよ」 「入れてなかった?」  一同が小さな笑いを含ませているときに、玄関が開く。  まだ開店前だが、と篠田が口を開こうとした瞬間、沢山の声が押し入ってきた。 「わーお。類沢さんいんじゃぁん! 篠田さん、これマスターからのお酒です」 「振り回すな、空斗」 「おやおやおや、スパークリングでなければよいので御座いますがね」 「本日シャドウズ臨時休業ー! ってことで飲みに来たぜ、篠田さん」 「はしゃぐな、空牙。耳に障る」 「皆さん、落ち着いては如何でしょうか」 「あれ? 大集合だね。呼んだの? 春哉」 「まさか」  思わぬ集合に困惑しているのはオーナーの篠田であった。  雛谷から賭けで勝ったワインを受け取り、私服姿のホストたちに呆気に取られる。  空牙は一夜と晃に親近感を覚えたのか肩を強めに組んで、談笑を始めた。  栗鷹夫妻が吟に会釈し、最近の歌舞伎町の動向を確認し始める。  紫苑も拓の容態を気にかけてそこに加わる。  松園親子は香り放つウォールフラワーに目をつけて、篠田にどこから取り寄せたか詳しく質問攻めする。  その全てを俺と類沢は傍観者となって、眺めていた。 「……賑やか」 「凄いですね。二ヶ月ぶりに八人集が揃ってますよ? 類沢さんも」 「おっと……更にビックゲストが来てる」 「え?」  玄関に走った視線を追いかけると、そこには、あのイタリアンレストランで見たマスターと、金原圭吾が立っていた。  コツコツと音を鳴らして類沢が近づく。  マスターは微笑んで、それに答えて進み出た。  俺と金原は互いの上司の一歩後ろに控える。 「お久しぶりです」 「随分ご無沙汰だな」 「色々伺ってはいたんじゃないの? 柾谷の件ではお世話になったって言えばいいのかな」 「聖と弦宮の橋渡しは私は関わっていないよ。弦宮麻那がこの店に来るよう頼んだのも息子がしたことだ」  はっと、金原を見る類沢に、青年は優しく口角をもちあげた。  秋倉の自宅の前で会ったときのように。 「何故……」 「オレに来た依頼は一つです。貴方にホストを辞めさせること」

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