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あの店に彼がいるそうです37

 店。  類沢は背後にいるメンバーの顔を一人ずつ確認するように思い返す。  抗争。  ガヴィアでもガーデンでもなく、類沢にホストを辞めさせたかった者。  そんなの疑ってしまえば篠田以外全員当てはまるじゃないか。  一時を除きライバルなのだから。 「……その暴露に意味はあるの?」 「見出だすのは各人じゃないですか」 「私の好かないやり方をする息子だよ」  黙っていたケイがため息混じりに云った。  ケイと関われるのは新宿では八人集レベル。  でも、金原はその息子だ。  八人集を偽ることも…… 「おいおい。過ぎたことをくよくよしても仕方ないだろ、雅。裏で誰がどう動いていたかなんて誰も把握してないしな」 「……春哉」  輪を抜け出して此方に来ていた篠田が類沢の頭をわしゃわしゃと撫でる。 「お前、鵜亥の元にもいたな。エレベーターから降りるときにすれ違ったろ?」 「よく覚えていますね」  え。  こいつ、堺の?  いや、それはないか。  通じていたのは確かとしても。 「恵介と会ってたのか」 「ええ、そのようなところです」  「しかし、そこまでして辞めさせたかった奴等は雅がまた戻ってくることは考えてなかったのか」 「さあ。ただ、この三年間トップだった類沢雅の休業が起こす影響は大体わかっているんじゃないですか」 「それもカバー出来ないような連中じゃないと思っているが」  篠田の威勢の良い言葉に類沢の眼も覇気を取り戻して鋭く光る。  ああ、俺この二人には揃ってて欲しい。  そんなこと考えてしまう。 「今日は開店祝いに来たんだ。空気を壊した息子の非礼は私が詫びよう」  ケイは余裕ある笑顔を見せて、吟のところに仰々しく歩いていった。  残された金原と向かい合う。  誰が口火を切るのかじっとしていると、聞いたことないほど低い声が隣から発せられた。 「……お前、僕になりたいの?」  その質問の意図するところがわからず、俺は眉を潜めた。  だが、類沢は何かに辿り着いたようだ。 「わざわざ秋倉の組織に入って、体を売って、僕と同じルートでホストになろうとしてる。依頼人以上に固執してるのは、お前自身だろ」  金原の笑みが輝いた。  レストランで見たときの、青年らしい爽やかさが場違いに甦る。 「ようやく気づいたんですね。このまま長野に戻られると思っていましたが」

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