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あの店に彼がいるそうです38

 金原は興奮して顔を赤くした。 「雅さん、あんたは本当に凄い人でした。インテイスの一件の時も、そのあと八人集を動かすときの鶴の一声も、見事なもの。倉庫で注射器持った姿はまるで神みたいに凄まじかった」  ああ、そういえばと篠田は思い出す。  この青年は、あの時我円に連れられて情報を提供しに……我円を、通じて。  一抹の疑念を消し去ろうとするが、難しい。  玲と仕事をした八人集。  スフィンクスが? 「そのあんたが、宮内瑞希に会ってから堕ちていくのはそれはもう早かった。アフターをしなくなってシャドウズに客が流れて、名声も薄れていきましたよね」 「心配してたの? 光栄だね」 「そうやって余裕ある話術も直接学びたいものですよ。でももう引退だ」  まるで、恩師の引退を労う模範生のような気持ちのよい清々しさ。  彼は、類沢のファンだったんだろう。  雅樹とはまた違う因縁を持っていた。  呼び方を変えてから一層それを感じる。 「貴方はホストを辞めてしまう」  あ……  涙腺がじわりと刺激される。  誰も、直接は口にしなかったその文が、心を酷く揺さぶった。  辞めてしまう。  シエラから居なくなったと言っても一ヶ月。  それが、この先どのくらい。  歌舞伎町では誰もが知っているホストの類沢雅が、そこからいなくなる。  篠田が唇を噛み締めるのが見えた。  いつの間にか、背後の皆も静まっていた。 「そうだね」  類沢がぽつりと口にした。  それから、短くなった髪を掻き上げる。 「この街に十七年間。色んな角度から見てきた。あまり好きじゃないけど、中々寂しいかもね」  口を挟む者はいない。 「ただね、これまでにないほど未来のここを楽しみにしてるよ。春哉も同感だろうけど、自分が上に立ってきた場所を明け渡すって言うのは、不思議と胸が高鳴るものでさ。勿論不本意な部分もあるかもしれない。でも、楽しみだよ。お前がどうなっているのかも。あの秋倉に付き合ってきたんだから、中堅で終わるわけないだろ」  金原は力強く見つめ返した。  楽しみに、なんて。  弦宮麻那の記憶が失われて行く未来を。  ホストとしての誇りで上塗りして。  今ここには、俺が見たかった類沢雅がいる。 「どの店から始めるか知らないけど、八人集は一人空いてる。僕が戻ってくるまでには、そこに辿り着いているのを期待してるよ。金原圭吾」

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