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あの店に彼がいるそうです39
開店までの短い時間、類沢は集まっていた一人一人と話しに行った。
俺は篠田の隣でソファに座ってそれをぼんやりと眺める。
「あいつは戻ってくるさ」
突然そう言われて、反射的に頷いた。
「はい」
「それまでお前はどうする?」
俺は。
借金は返済し終えてる。
再会も果たしたし、講義は後期からなら復学に間に合う。
大学生に戻れるんだ。
羽生兄弟が守ってくれたあの部屋から。
雅樹のいない大学に。
「あの……オペラで、働いても良いですか」
「ダメだ」
「なんでっ。え? えっ、今絶対許してくれると思ったと言うか、そのつもりで俺連れてきたんじゃなかったんですか?」
心底驚いて叫ぶ俺の肩を軽く叩く。
「冗談だよ」
「チーフ……」
「お前がいたら、退屈しない。出来れば古城拓にもいてほしかったが」
気に入ってたんだ。
それより、退屈しないって。
「親に言えんのか」
「それは……」
「苦労して大学に入れてくれたんだろ」
「そうですけど」
「だが、雅の嫁になれば老後まで安心だもんな。あいつの資産は億なんて超えているし。どうせ復帰してまた稼ぐだろうからヒモでも生きていける」
「チーフ!」
扱い雑になってないか。
楽しそうに頬を緩ませていた篠田が、ふと真顔に戻る。
「大変だぞ。これからは八人集だけの繋がりでは保っていけないほどの波が来る。新興勢力もいくつか上がってきている。悠も心配しているが、荒れるだろうな。類沢の不在は相当でかい」
「……はい」
「大学生に戻るのが正しい」
「そう、かもしれません。でも」
でも。
なんだ。
もうとっくに、決めてたのか。
俺。
河南に引き合わされたとしても。
俺のせいでホストから離れたとしても。
たった三ヶ月の夢みたいな生活だけが、繋がりだったとしても。
「俺は、類沢さんの傍にいたいです」
「そういう話は本人に直接するもんじゃないかな」
「わぁあああああっ?」
耳元で囁かれて飛び上がると同時に仰け反ったせいで、類沢の顎に思いきり頭をぶつけてしまった。
頭を抱える俺と、顎を押さえる類沢の周りの空気が小刻みに揺れている。
爆笑が沸き起こった。
「ぶっははは。相変わらず恨まれてるな」
「おやおやおや、雅氏……」
「みーせーつーけー!」
「妬くな」
「ハアッハッハ! 若いの元気だ」
「じじい、んな笑ったら顎外れんぞ」
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