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第2話 爆発させるよりゃマシだろ

「イケメン、イケメンって言うのやめてくれないかな。俺の名前、佐々木豊って言うんだけど」 「苗字は知ってた」 「じゃあ名前で呼んでくれたっていいだろ。イケメンって言葉、好きじゃない」 拗ねたみたいな声で小さく呟いている。言われるのが嫌になるくらいイケメンって言われるとか、マジで羨ましいんだけどなぁ。でも嫌なんだろうなぁ。 「分かった、もう言わない。つーかあんなキレるほど嫌だったって思わなかったからさ、こっちこそゴメン」 「えっ」 佐々木のおっきな目が、さらに見開かれる。薄暗がりの中でおっきな目だけがなんだかはっきり見えて、オレはちょっと笑ってしまった。 こんな暗がりの中で、目くらいしかはっきり見えてないのに、それでもやっぱりイケメンはイケメンなんだなぁ。なんかいい匂いもするし。 掴みどころも非の打ち所もないと思ってたイケメンがうっかり見せた本音。コイツにも人間らしい感情が見え隠れするのが面白くて、さっきまで怖くて震えてたってのに一気に気持ちが楽になってしまった。 「そんなに嫌ならさ、今みたいにハッキリ言えばいいのに。イケメンって言うなって」 「それ、言った方がイヤミなヤツじゃないか?」 暗闇の中で佐々木が笑った気がしたから、オレも「確かに」って笑った。そりゃあイヤミなヤツだわ。 「ま、オレも悪かったし、今日の事はマジで誰にも言わねぇから安心して」 「……ありがとう」 「まぁもし、また腹の中のモヤモヤ吐き出したくなったら連絡しろよ。オレで良ければ聞くからさ」 「えっ」 しばらくまじまじと俺の顔を凝視してた佐々木は、オレが本気だと分かるとへにゃりと情けない笑顔を見せた。 「いいの? ホントに?」 「うん。今みたく爆発させるよりゃマシだろ」 ちゃちゃっと互いにラインを設定してそのまま別れる。ちなみに外に出てみたら、その時連れ込まれていたのは用具室だった。こんなとこあったんだなぁ、認識もして無かったわ。 それからオレのスマホには、たまーに佐々木から連絡が来るようになった。学校で直接話しかけてこないのは、佐々木いわく自分の友人だと認識されると面倒くさいことに巻き込まれるから、らしい。 うんまぁ、なんでアンタが仲良いのよとかディスられたり、恋の橋渡しをちょいちょい頼まれてげっそりしてそうなオレが目に浮かぶわ。確かに面倒くさい。 ってわけで、佐々木の悩みを聞くのはもっぱらラインだ。 最初はちょっとした愚痴をきくだけだったけど、そのうち雑談も増えてきた。クラスも一緒だから共通の話題もなんとなくあって、学校では一切話さないっていうのにオレ達はちょっとずつ仲良くなっていった。 そうなってみて初めて分かったことは、佐々木が意外と孤独だということだった。 オレにも学校では一切話しかけてこないだけあって、佐々木は本当に自分の言動を制限していた。誰にでも優しく。でも特別に仲がいい人は作らない。できるだけ誰の悪口も言わず、マイナスな言葉を吐かない。 どこでどんな風に曲解されて迷惑をかけるかわからないからだって佐々木は言うけど、そんな気ぃ張って生きてりゃそりゃあストレスも溜まるわ。ただでさえ人の視線が鬱陶しいだろうに。オレには考えられない。 〔だから、宮下とこうして話せるの、すごく嬉しい〕 そんなこっ恥ずかしい言葉をラインで送ってくるくらいには、佐々木は友達との何気ない会話に飢えているらしかった。話すっつってもラインだけどな、というツッコミはもちろん心の中に留めておいた。 そんなこんなですっかりライン友達になってひと月くらい経った頃。 学校から帰ろうかなってタイミングで佐々木からラインが入った。 〔今いい?〕 〔おう、どした?〕 〔結構限界で……できたら直接会って話し聞いて欲しいんだけど……ダメかな〕 オレは文面を二度見する。 「うっわ、珍しー」 思わず声が出た。意表を突いた事言うなぁ。 ていうか限界って。何があったっつーんだ。学校では普通に見えたんだけどな。 ふと、友達になったきっかけの『イケメン滅びろ事件』を思い出す。あの時みたいにいっぱいいっぱいになってるのかも知れない。闇堕ちする前に救わねぇとまたヤバい佐々木が現出してしまう。 〔いいけど、どこで会う?〕 〔誰にも聞かれたくないから、俺の家だと一番ありがたいけど〕 佐々木の家! イケメン王子の家とかレアすぎねぇか。めっちゃ興味あるわ。 警戒心の強い佐々木が家に呼んでくれるという特別感もオマケして、オレは速攻でOKした。そしたらポコン、と地図が送られてくる。 マジか。 〔え、これって地図を頼りに来いってこと?〕 〔ごめん、学校から10分程度でほぼ一本道だから〕 〔マジか〕 〔分かんないとこあったらナビする〕 〔ほんじゃまぁ、行ってみるわ〕 まさかの現地集合かよ。一緒に歩いてるとことか見せないためなのか?? 徹底してんなぁ、と妙なことに感心しつつオレは地図を頼りに佐々木ん家に向かう。 学校から徒歩10分弱のタワマンだった。

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