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第4話 嫌なことでもあったんだろ?

「いやー、佐々木の家が衝撃的過ぎてすっかりお宅訪問的な動きになってたわ、ごめん。限界って言ってたくらいだからなんか嫌なことでもあったんだろ?」 ポテチ食ってやっと人心地ついたオレは、おもむろに切り出した。 玄関で出迎えてくれたコイツがあまりにも満面の笑みで、かつコイツの家がすご過ぎたからちょっと脱線しちゃったけど、そもそもオレがここにいる理由はコレだった。 ラインだけじゃ足りなくて家に呼ぶくらい限界迎えてたんだから、今日はじっくりと話を聞こう。 そう思ったのに。 「特別に大きな出来事があったってわけじゃないんだ。小さいのが積み重なって臨界点にきたっていうか」 佐々木は眉毛を八の字にしてそんな事を言う。 あれか、オレを用具室に引っ張り込んで壁ドンした時とおんなじ感じか。 「でも、宮下と話してたらなんか落ち着いてきた」 「そんなもん? 悩みは何ひとつ聞いてねぇんだけど」 「うん、不思議だね。宮下には色々バレちゃってるから気を張らなくていいからかな」 「別に他のヤツにも佐々木の素のままで接していいと思うけどなぁ。お前、素でも普通にいいヤツじゃん」 気を許してくれてるって言われると嬉しいけど、佐々木は本当に素のままでいいと思う。確かに真面目で気にしぃなトコはあるけど、それって別に悪いことでもなんでもねぇし。 「そんな事言ってくれるの宮下くらいだよ。皆割と俺に勝手なイメージ抱いてるから」 「オレも多分そうだったけど、アレがあったからなぁ。でもイメージと違ったからって別に、佐々木ってこんなヤツだったんだな意外ーって思う程度じゃね?」 「宮下は懐が深いから。アレでライン交換する流れになったの、今でも信じられない」 「ははっ、確かに」 お前が闇堕ちしそうで怖かったから、とは言わないでおいてやる。 「宮下が分かってくれてるならいいか、って思えたからもう平気」 「ふぅん」 やっぱりなんか嫌な事があったんじゃねぇか。とは思うけど、佐々木が言いたくないならオレは聞かない。結果的になんとも言えない適当な返しになってしまった。 テレビもなんもない部屋で、悩みを聞くわけでもなく他愛もない話をする時間は、意外にも心地いい。 佐々木の好きな本とかの話は高尚すぎてオレにはよく分かんなかったけど、佐々木はオレが好きなゲームやマンガの話に興味を持ってくれたみたいで、すっごく楽しそうに聞いてくれるから、あれこれ話してたらあっという間に外が暗くなりかけていた。 「やっべ、そろそろ帰らねぇと」 慌てて立ち上がるオレを佐々木が玄関で見送ってくれる。 「俺の家、宮下ん家に帰る途中にあるみたいだし、これからも時々寄って話聞いてくれる? お菓子くらい用意するからさ」 そう言って笑う佐々木がちょっと寂しそうだったから、オレは素直に頷いた。 *** その日を境に、オレはたまに佐々木ん家に行くようになった。 相変わらず学校では特に話すこともなく、佐々木ん家に行くのも現地集合のままだったけど、徐々に頻度を増して悩みを聞くお礼にって勉強を教えて貰うようになる頃には、週3くらいで佐々木の家に通うようになっていた。 前はあんま佐々木に興味なかったから知らなかったけど、佐々木ときたら勉強も出来るんだ。 大体学年十位以内に収まってて、中でも俺の苦手な数学が得意なんだってさ。運動も別に苦手じゃないみたいだし、神様はどんだけ佐々木を贔屓するんだよ。 佐々木がお礼に勉強教えるよ、なんていうからわざわざ他人ん家まできて勉強したくないって言ったんだけどさ、教わってみたら教え方がめっちゃ上手くて、結局授業で分からない所を教えて貰うようになった。 ちなみに部活でもないのに俺がしょっちゅう暗くなるまで帰ってこないもんだから、母ちゃんにめっちゃ怪しまれて仕方なく佐々木をうちに連れて帰った事がある。 その時の母ちゃんと姉ちゃんの豹変っぷりったら凄かった。 いやまぁ、分かるよ? イケメンでさ、背も高くて物腰柔らかくて、しかもこのアホな俺にタダで勉強教えてるって言われれば、そりゃ大歓迎するだろうよ。でも面白くない。 二度とウチには連れてこねぇと誓った。 そんなわけで今や俺は、悩み相談があろうがなかろうが佐々木の家に毎日のように入り浸っている。 佐々木ん家は一人っ子な上に両親共に医者らしく日中は誰も居なくて、いつもうるさいウチとは大違いだ。エアコンも躊躇なくかけてくれるしおやつまで出してくれる。はっきり言って居心地がいい。 佐々木は基本的に穏やかな優しいヤツだし、俺から感化されたのかこのところゲーム機やマンガも買うようになったみたいで、ひと通りの勉強さえ終わってしまえばほぼ天国。佐々木は天使レベルの顔だし、ひたすら褒めてくれるし、マジで天国なんじゃないかな、佐々木ん家。 殺風景だった佐々木の部屋には、テレビやゲーム、小さなローテーブルと座り心地のいいクッションなんかも置かれてて、今や生活感もバッチリだ。オレの部屋と違うのは、物が増えてもちゃんと片付けられてて清潔感があるってとこくらいだろう。

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