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第5話 キスした事ある?
その日も一緒に勉強してゲームして、まったりと二人でテレビを見てた時だった。ふと気になって俺は佐々木に聞いてみた。
「そういや佐々木ってキスしたことある?」
「な、ば、なに、急に」
あはは、めっちゃ赤くなって焦ってる。
佐々木って前から思ってたけど、イケメンのくせにこういう話題に過剰反応するよな。俺ら童貞組となんら変わらん。親近感ってこういうトコから生まれるんだよなぁ、なんて思いつつもう一回重ねて聞いてみる。
「ないの?」
「あるわけないだろ!」
真っ赤な顔のまま怒ったように言う、照れた様子はむしろちょっと可愛い。
「えー勿体ない、佐々木くらいイケメンならいっくらでもチャンスありそうなのに」
そう言ったら、佐々木は嫌そうな顔でそっぽを向いた。
「そりゃされそうになった事は何回かあるけど。ちゃんとガードしたし」
「うおお、女子も結構肉食なんだな! うわぁ、されそうになってみてぇ~!」
心の声が口から飛び出た。佐々木からは恨みがましい目で睨まれたけど、こればっかりはしょうがない。しかしやっぱりなぁ。これだけイケメンだとあっちから来るのかぁ。
「羨ましい。オレならありがたく流れに任せてキスしちゃうけどなぁ。据え膳食わぬは男の恥って言うじゃん」
「それホント意味分かんない。恥でもいい。気持ち悪いだけだよ、好きな子としかしたくない」
「乙女かよ」
あんなにモテるくせに身持ちの堅いコイツの原点を見た気がした。
「ていうか、なんで急にそんな事聞くんだよ」
ちょっとだけ唇を尖らせて、拗ねたっぽいのが面白い。仲良くなってみれば、コイツも普通に表情豊かなヤツだった。
「ああ、この前綾瀬ん家でAV見てたらそんな話になってさ」
「AV!? 見たの!? 綾瀬と二人で!?」
めっちゃ食いつきがいい。こやつも男よのぅ、と内心ほくそ笑んだ。
「いや、アイツの兄ちゃん経由ですげーの手に入ったって言うからさ、綾瀬ん家で観賞会。十人くらい居たんじゃねぇの? マジで結構スゴかったぜ? 今度観賞会あったら声かけようか?」
「絶対に行かない」
「なんでさ」
「宮下だけならまだしも…………そんなの、どんな顔して見てればいいんだよ」
「あー……確かに。いつもは皆画面に釘付けで他人のことなんて見ちゃいねぇけど、佐々木が来たらみんな興味本位で佐々木の方見ちゃうかもなぁ」
サイアク、って顔で佐々木が天を仰ぐ。思わず笑った。
「やっぱり絶対に行かない」
「お前の場合、猥談なんかには絶対参加しない爽やかなイケメンっていうイメージがあるから、余計に気になるんだよなぁ」
「なんだよそれ……」
「そんなモンじゃん? 例えば斉藤とかもそうだけどさ、エロ系の話になると慌てて逃げてくからさ、そういうヤツだとどういう反応するかなってのは気になるかもな」
「悪趣味だろ、そんなの……」
「つーか、オレでも佐々木を見るわ」
「えっ」
今でさえ真っ赤になって居た堪れないって顔で視線もウロウロしてる。
普段はあんなに穏やかで、どんなに女の子にキャーキャー言われても静かに笑ってるだけのコイツが、動揺しまくって恥じらってるってだけでもめちゃくちゃレアだ。
エロッエロで下品なAV見た時に、この綺麗な顔がどんな表情浮かべるかなんて、そりゃもう気になるに決まってるじゃん。ぜひとも見てみたい。
「……」
佐々木が考え込んでしまった。
勉強関係は何ひとつ教えてやれねぇけど、こっち方面ならオレの方が詳しそうだ。健全なる男子高校生としての一般常識くらいは耳に入れてやろう。エロ系のことなら任せとけ。
そんな事を考えてたら、佐々木がチラッとこっちを見る。
話しかけたいのかと思って見返したら、佐々木は慌てたみたいに目を逸らして、ついには俯いてしまった。
「どした?」
「いや、その……ちなみに宮下は、した事あるの?」
「? 何を?」
「キスだよ。宮下が聞いてきたんじゃないか」
「ああ!」
すまん、もう忘れてたわ。そんな一個前の話題。
「あるわけないっしょ。ディープキスどころかライトもバードも何もない。なんならオナニーくらいしか経験のない、他は真っさらさらの新品よ?」
猥談に一切躊躇がないオレはフルオープンで返したわけだが、佐々木はさらに赤くなっている。猥談初心者っぽい佐々木にはちょっと刺激が強すぎたか。反省。
「……それにしては詳しいね」
なんでだか佐々木は疑うような目で見てくる。悲しいことに佐々木と違ってこちとら向こうから来てくれたりはしないのだ。そしてこっちから行く勇気ももちろん無い。
「そりゃもう勉強してますから。経験がないからこそ興味あるってもんだろ。言っとくけど知識だけはめっちゃあるぞ、オレ。まぁ主にAVとエロ本情報だけど」
「やっぱり、経験したいんだ」
「聞くまでもなくない? したいに決まってるじゃん」
その瞬間、フッと目の前が遮られて、唇に温かくて柔らかなものが触れる。
ちょっとだけ濡れたような何かが軽く唇に押し当てられている感触に、オレは硬直した。
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