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第6話 オレのファーストキス……!
コーラで冷やされた唇に、ほのかにあったかさを感じる。
その熱に気づいた次の瞬間には、チュっと音を立ててから佐々木の顔が離れていって、焦点が定まる距離に来たらとろけるような笑顔が見えた。
「宮下の知識でいけば、これって何キスに分類されるの?」
「多分、ライトキス……」
至近距離でイケメンの色っぽい笑顔をくらったオレは呆然と答えて、次の瞬間ハッとした。
「じゃねーよ! 何してくれてんだよ! オレのファーストキス……!」
「ファーストキスだったんだ」
嬉しそうに笑うんじゃねぇよ。どうせオレにはキスを迫ってくれるような子はいねーよ。やさぐれて、すぐに思い出す。
「つーかお前もじゃねーか!」
「うん。でもしてみたかったんでしょ? キス」
「そうだけど!」
「さっきの口ぶりじゃ誰でも良さそうだったから。据え膳食わぬは男の恥、なんだよね」
「そうだけど……」
くそぅ、言い返せない。でもさぁ、それは女の子の話であって、男でも犬でもいいとか、そういう話じゃないわけよ。しかもあんなに嫌そうな顔してたくせに、いざやろうと思えばサラッとカッコよくキス出来るってなんなの!?
イケメン過ぎて一瞬キュンとしたわ!
「どうだった?」
「知るか! 不意打ちな上に一瞬だったからそんなん分かるわけねーだろ」
ブスッとしたままのオレの両頬を手で包んで、佐々木は上機嫌なまま顔を近づけてくる。
「じゃあもっとキスする? ディープとかバードとか言ってた? 経験したいんだろ、やってみてもいいけど」
サラッとそんな事を言われてしまった。完全に佐々木の方がうわてだ。オレの中の「教えてやるぜ!」という上から目線は完全にへし折られてもうバッキバキだ。
「遠慮します……」
小さく言って、抱きしめたクッションで唇をガードする。
佐々木はそんなオレを見て、すっごい楽しそうに笑っていた。『イケメン滅びろ事件』で壁ドンされた時も思ったけど、コイツほんっとーーーーーに時々、Sっ気出してくるんだよな。
エロエロなディープキスなんかかまされて、オレがお前に惚れたらどうするつもりなんだよ。
恨みがましい目でジトっと見たら、佐々木はバチン! と音がしそうなウインクをかまして微笑んだ。
「その気になったらいつでも言って」
言わねーよ!!!
ちくしょう、イケメン恐るべし。
***
「宮下、キスしたいの?」
キラキラしい笑顔の佐々木が、オレの顔を覗き込んでくる。
「可愛いバードキスがいい? それとも濃厚なディープキスがいいのかな」
オレの唇にゆっくりと人差し指を押し当てて、意味ありげな微笑みを浮かべる佐々木。
「エッチなキス、しようか……」
目元が仄かに赤くなって、なんとも色っぽい。目が離せなくて見惚れてたら、佐々木の顔がだんだんと近づいてきて、オレの唇にあったかくて柔らかいものが押し当てられる。
ああ、オレ、佐々木にキスされてる……。
唇をゆるく開いて、オレは……
「うわぁぁぁぁ!!!!」
めっちゃ叫びながら飛び起きた。
ハァハァと肩で息をして、息が落ち着いたとこで周りを見回す。よし、オレの部屋。普通に朝。問題ない。
不覚にもファーストキスを奪われて、至近距離でとろけるような笑顔を向けられたオレは、あれから佐々木にキスされる夢をちょいちょい見るようになってしまった。
佐々木にあまりにもスマートにカッコよくキスされて、色っぽい顔で「もっとキスする?」なんて言われてしまったせいで、きっとオレの脳みそがバグっちゃったに違いない。
だってあんな色っぽいオス味のある顔、もちろん見た事もなかったし。夢の中でもめちゃくちゃ迫ってくるし。だんだん躊躇なくキスを受け入れるようになってきてる自分が怖い。
こんな夢をしょっちゅう見るようになったら怖くてもう居眠りなんかできない。
授業中とか佐々木ん家でうっかり寝ちゃって、変な寝言なんか言った日には取り返しがつかないことになってしまう。オレは戦々恐々としていた。
落ち込んだまま飯食って学校に行けば、嫌でも佐々木が目に入る。アイツ絶対オレより早く教室にいるし、何しろ目立つ。あんなイケメンフェイス、気にすんなって方がムリだわ。
佐々木の夢を見るようになってしまったオレは、アイツの顔を見るのが恥ずかしいという、なかなかにヤバい状態に陥っていた。とりあえず学校では絡まなくて済むってのがこんなにありがたいとは。
だがしかし。
もちろん一番困るのは佐々木ん家で二人っきりでいる時だった。
人目はないから、その点ではもしうっかりオレが奇行に走ってもダメージは少ない。その点では安心だ。でも、その分佐々木との距離感がめちゃくちゃ近い。
勉強を教えて貰うのだってちっちゃなローテーブル越しだし、佐々木の部屋にいる限り二人がけのでっかいクッションかベッドに座るハメになるわけで、至近距離すぎて緊張する。
心臓なんか常に小躍り状態だ。
しかもオレがこんなに困った事になってるっつーのに、あんな事をやらかした張本人である佐々木は、オレの葛藤になんて気づきもしないでめっちゃ普通に接してくるんだよなぁ。つらい。
佐々木、知ってるか。
イケメンは冗談でああいう事したらヤケドするんだぞ。
主にオレが!
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