2 / 2
第2話
「…ぃ、…おい!」
懐かしい、声が聞こえた気がした。俺を呼ぶ、声。
朦朧とする意識の中、閉じていた目を、凛はゆっくりともう1度開けた。
凛の瞳に映ったのは、去年も自分を助けたあの男だった。
なんで…また…。
凛は言いたい事が山ほどあったが、何より体がだるくて、浮き上がることさえ出来ない。
沈んでいく自分の体。抗うことの出来ない海の深さ。
最後に、お礼を言いたかった。去年の、俺を…。
最後の力を振り絞り、凛は、下へ下へと、自分の方へ向かって潜ってくる男に向かって『ありがとう』と、言葉を贈った。
◆ ◆ ◆
次に凛が目を覚ましたのは3日後の事だった。
なぜ、もう一度目を覚ませたのか。
「よぉ、起きたんだな。」
それは、凛の目の前にいるこの男があの深い海からもう1度凛を救い出したからだった。
凛は着替えさせられ、布団に寝かされていた。
周りをキョロキョロと見渡すが、普通の家、しかもちょっと古い。なんて感想しか出てこなかった。
「君は…一体だれなんだ…?なぜ、俺を2度も助けた。」
凛の問いかけに対し、男は少し間を開けてから腹を抱えて笑い出した。
何がおかしいのか。凛は少しムッとした。
「普通、一度助けた命を捨てた男をもう1度助けるか!?なんで君は2回も俺を助けたんだ!」
助けてもらった側のくせにムキになって、凛はこう言い放った。
だが、男は優しそうに微笑みながら答えた。
「海に沈んでいくアンタが、この世のものとは思えないくらい綺麗だったから。」
ともだちにシェアしよう!