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第2話

「…ぃ、…おい!」 懐かしい、声が聞こえた気がした。俺を呼ぶ、声。 朦朧とする意識の中、閉じていた目を、凛はゆっくりともう1度開けた。 凛の瞳に映ったのは、去年も自分を助けたあの男だった。 なんで…また…。 凛は言いたい事が山ほどあったが、何より体がだるくて、浮き上がることさえ出来ない。 沈んでいく自分の体。抗うことの出来ない海の深さ。 最後に、お礼を言いたかった。去年の、俺を…。 最後の力を振り絞り、凛は、下へ下へと、自分の方へ向かって潜ってくる男に向かって『ありがとう』と、言葉を贈った。 ◆ ◆ ◆ 次に凛が目を覚ましたのは3日後の事だった。 なぜ、もう一度目を覚ませたのか。 「よぉ、起きたんだな。」 それは、凛の目の前にいるこの男があの深い海からもう1度凛を救い出したからだった。 凛は着替えさせられ、布団に寝かされていた。 周りをキョロキョロと見渡すが、普通の家、しかもちょっと古い。なんて感想しか出てこなかった。 「君は…一体だれなんだ…?なぜ、俺を2度も助けた。」 凛の問いかけに対し、男は少し間を開けてから腹を抱えて笑い出した。 何がおかしいのか。凛は少しムッとした。 「普通、一度助けた命を捨てた男をもう1度助けるか!?なんで君は2回も俺を助けたんだ!」 助けてもらった側のくせにムキになって、凛はこう言い放った。 だが、男は優しそうに微笑みながら答えた。 「海に沈んでいくアンタが、この世のものとは思えないくらい綺麗だったから。」

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