13 / 14
12 魁!!男祭り
夜の街。
人混み賑う駅前に、ナップザックを背負った乱れた髪の青年が、街の中心部に向けて歩いていた。
青年の名前は、シオン。
一見、小柄で線が細く儚げに見える。が、その表情は生気に満ち溢れ、しっかりと意志を持った強い目をしている。
そのシオンは、ふんふん、と鼻歌を歌い上機嫌。
足取りは軽く、すぐに人の波に溶け込む。
「この感じ……懐いな」
スーハー。
シオンは、息を大きく吸って吐いた。
「俺は、久しぶりに帰って来たぞ!」
両手を上げて、叫んだ。
スクランブル交差点を行きかう人々は、そんなシオンの行為など気にする事もない。
シオンは、歩みを進め、見慣れない巨大サイネージを見つけた。
「へぇ、あんなの出来たんだ……」
そこに、映し出されたニュース。
『……では、次は男祭り関連の話題です』
「男祭り」の単語に引っかかり、ふと足を止めた。
そして、流れる映像を無言のまましばし見つめる。
美形のイケメンが、『応援、よろしくお願いします!』と笑顔を振り撒いた時、シオンは独り言を呟いた。
「……フタバ、お前なのか? ふふふ、そうか。参加するよな、当然。そうじゃなきゃな」
****
『男祭りのニュース』
「ヤグラ建設現場から中継でお伝えしています。
男祭り直前。
男祭りのシンボルである、ヤグラ建築に抜擢された新進気鋭の建築デザイナー、フタバさんにインタビューです。
さて、フタバさん、木組みで作られたピラミッド型のヤグラ、その頂点に近未来風の石造りの王座。いやー、素晴らしいデザインですね。
伝統とモダンの融合がテーマとお聞きしましたが」
「ええ。男祭りの起源である鎌倉初期から江戸初期まで続いた伝統の重み、そしてこれから未来へ絶え間なく伝え続けていくという固い意思。そんな思いを込めました」
「なるほど、挑戦的で斬新ですね。さて、男祭り当日は、ストリーミングで全世界にライブ中継される予定です。このヤグラは、きっと話題になる事でしょう」
「ありがとう御座います」
「ところで、フタバさんも、男祭りには、チーム参加されると伺いましたが」
「はい。もちろん、私も一番男になりたいものですから」
「なるほど、祭りの方でも活躍し、自らの作品に華を添えるって事でしょうか?」
「ええ、そうできたらいいな、と思っています。ははは、ちょっと欲張り過ぎでしょうか」
「いえいえ、そんなことは……フタバさんのご活躍を祈っております。では、頑張ってください!」
「はい。応援の程、よろしくお願いします!」
****
とある美容院。
待合室に掲げられた大きなモニターに映し出されたニュースに、ミカサは怒鳴った。
「チッ、ったく、何が応援よろしくだよ! 胸糞悪い」
ミカサは、腕のいい美容師で、顧客を何人も抱える人気美容院のオーナー店長。
容姿は、肉体派のイケメンで、その甘いマスクはホストを連想させる。
腕も良くハンサムと言うことで、女性客から引っ張りだこである。
そのミカサに、従業員が尋ねる。
「どうしたんすか? 店長が怒鳴るなんて珍しい」
「悪い、何でもないんだ。さぁ、そろそろレジを締めてくれ」
「はい! 了解です!」
従業員達は、サッと作業に入った。
****
ミカサは、明日の予約確認を完了し、うーん、と伸びをした。
従業員達のおしゃべりが耳に入る。
「お前、男祭り、出るのか?」
「もちろん! 地元の奴らとチーム組むよ!」
「へぇ、俺は高校の時のダチとだ」
「知り合いだからって戦場では容赦しねぇぞ!」
「望むところだ! あははは」
(男祭り、盛り上がってるな。さすがイチゴ。お前が立ち上げた企画だけあるぜ)
ミカサは、従業員の盛り上がりを背に、表札をCLOSEDに切り替えようと表に出ようとした。
と、その時。
丁度、来客があった。
ミカサは、瞬時にお辞儀をする。
「すみません、もう店を閉めるところで……な、お前」
「よお!」
元気な声。
声の主はミカサが良く知る人物のものだった。
ミカサは、すぐさま受け付けで締め作業をする従業員に声をかけた。
「二人とも! 今日は先に上がってくれ。あとは俺がやる」
「はい、了解です! 店長!」
****
ミカサは、店の前で待っていた人物を招き入れた。
「さぁ、入れよ、シオン」
「やあ、ミカサ。久しぶり!」
「久しぶりじゃねぇよ! シオン!! 何で帰って来たんだよ! せっかく色々手配してやったのによ!」
「な、何だよ、お前、嬉しくないのか? 俺が帰って来たんだぞ……」
シオンは、ミカサの手荒い出迎えにしょんぼりした。
ミカサは、シオンの体をガバッと抱いた。
「嬉しいに決まってるだろ! このアホが!」
「うぐっ……苦しいって! この馬鹿力!」
ミカサは、シオンの耳元でささやく。
「……おかえり、シオン」
「ただいま……ミカサ」
二人はしばらくの間抱き合ったままでいた。
****
シオンは、ミカサの手さばきにうっとりとした。
「はぁ、やっぱり、ミカサに髪いじられるのって最高に気持ちいい。幸せだ、俺……」
「そうだろ? お前の為にこの店やってるようなものだからな」
「ん? 何か言ったか?」
「いや。ところで、ずいぶんと髪伸びたな……」
「そうか?」
「美しい髪だな……相変わらず」
「おいおい、男に髪を褒めてどうするよ」
「……って、お前、本当は褒められて嬉しいんだろ?」
「チッ、バレた?」
「バレバレだよ。何年お前と付き合ってると思ってる!」
「ははは、だな」
何年振りかの再会。
でも、二人はすぐにいつもの距離感に戻る。
それが幼馴染の良いところ。
さて、理容の方は、あらかたのカットが終わり、細部の仕上げに入っていた。
ミカサは、シオンの襟元を整えながら言った。
「ところで、シオン。顔色いいし、元気そうだな」
「だろ? 健康そのもの。体、鍛えてるんだ」
「鍛える? 何のために? はっ、まさか……お前、男祭りに出るつもりか!?」
「ああ」
ミカサは、手を止めて怒鳴った。
「バカ! やめろよ」
「何だ、俺を心配してんのか?」
「それは、そうだろ。危険すぎる。だってお前は……」
「オメガだからか? 大丈夫。今は普通のやつ並には動ける」
「ちげえよ! そんな事を言ってるんじゃねぇ。フタバだ。絶対に、あいつが嗅ぎつけて襲ってくる。分かっているだろ?」
「ふふふ。そうだよな、フタバは俺の元にやってくる。それはアルファのさだめだからな」
「だったら……」
「だからこそ、男祭りに出る意味がある」
「え? どういう事だ?」
「俺の狙いもフタバだってんだよ!」
「何だと!?」
冗談を言っているのか?
ミカサは、鏡越しに、シオンの表情を窺う。
「俺は、あいつに勝たなくちゃいけない。フタバに勝たなくちゃ、俺は、これからもずっと負け犬人生だ。この男祭りは絶好の機会。こんなチャンスは二度と来ない」
シオンの目は真剣そのもの。
「見返したい気持ちは分かる。しかし……」
「頼む、ミカサ! 俺の力になってくれ。お前だけが頼りなんだ。なぁ、頼む」
「……シオン」
つぶらな瞳が、じっとミカサに向けられている。
シオンの頑固さは筋金入り。
こうなったら、もう後には引かないだろう。
ミカサは、大きなため息を吐いた。
それなら逆に、いかにしてシオンを守るか。魔の手から、そう、フタバの手から。
ミカサは観念して言った。
「……ったく、仕方ねぇな。出来るだけの事はする。しかし、無理だと思ったらそこで終わりだ。お前を何としてでもこの街から脱出させる。それでいいな?」
「ありがりとう! さすが、ミカサ!」
「まったく、いい迷惑だぜ……愛する男の頼みをむげに断れるかよ、くそっ」
ミカサのぼやきにシオンは反応した。
「ん! 何か、言ったか?」
「何も言ってねぇよ! ほら、シャンプーすっから椅子倒すぞ!」
「ああ、バカ、急に倒すな……」
****
かつて政府が極秘裏に進めていたプロジェクトがあった。
それは、人為的にエリートを産み出す研究。
『アルファプロジェクト』
事の発端は、コダカラの実による男性妊娠の成功に始まる。
男性妊娠により生まれた男の子は、稀にYY染色体を持って誕生する事がある。
彼らは、青年期に優勢因子が覚醒することで通常の人より高い能力を発揮する事が知られた。
その研究施設で育った4人の子達。
イチゴ、フタバ、ミカサ、シオン。
当て字で、一吾 、二葉 、三笠 、四温 の名が与えられた。
彼らは、実験素体であり、親の顔を知らない。
だが、4人は、そんな事は気しなかった。
なぜなら、エリートになる。そして、国を支えていく人間になる。
そんな高い志を小さいながらに持っていたからだ。
最初に優勢因子が覚醒し、アルファとなったのが、当時、中学生になったばかりのイチゴだった。
彼は、高い能力を発揮し、飛び級で大学をも卒業した。
イチゴ以外の三人は、一般の学校へと進学し、そこで覚醒を待つことになった。
しかし、不幸な事に、三人をバックアップしていた研究所は経営難を理由に閉鎖。
真の理由は、倫理的なものだろうと推測される。
男性妊娠も含め、研究のすべては闇の中へと葬り去られた。
放り出された三人の男の子。
彼らは、互いに力を合わせて生きていく事を誓った。
次にアルファを覚醒したのはフタバだった。
身体能力、頭脳、カリスマ性、そして美貌。
アルファに相応しく、あっという間に誰もが一目置く存在になり、学校では生徒会長の座に付いた。
シオンは、仲間の覚醒を素直に喜んだ。
「ミカサ、次は俺たちどっちかな? イチゴは政治家、きっとフタバは芸術家だろ? ミカサは、学者だよな? 俺は絶対にスポーツ選手! オリンピックに出てやるぜ!」
運動が大好きなシオン。
しかし、シオンが覚醒したのは、発症が稀有とされている劣等因子のオメガだった。
「何故、俺はアルファじゃないんだ!! オメガって何だよ! くそっ」
「シオン、大丈夫だ。俺はずっと一緒にいてやる。約束する」
ミカサは、シオンを慰めた。
あれだけ運動が得意だったシオンは、瞬く間に運動音痴になった。
鈍臭い。トロい。
そう言われるようになった。
そして、成長がぴたっと止まり、見た目も、ほっそりとし、弱々しく儚げなげで、中性的になっていった。
そうなると、当然、イジメまがいの事が始まる。
「お前、女みたいだな。本当に付いてんのか? 見せてみろよ! あははは」
シオンは、歯を食いしばり我慢した。
一方、フタバはそれを知っていながら、見て見ぬふりをした。
むしろ、けしかけているようにも見える。
ミカサは、少年の頃の誓を簡単に反故にしたフタバに激怒した。
「フタバの野郎! 誓はどうなったんだよ! 自分だけ偉そうに!」
「……いいよ、ミカサ」
それでも、必死に人前になろうと努力するシオン。
ミカサは、影で走り込みや筋トレを必死に取り組むシオンの姿を見て、切なくて涙を流した。
そんなある日、シオンが体調不良を訴えてきた。
「ど、どうした?」
「なんだか、体が火照って……体が思うように動かないんだ」
赤い顔。そして、すごい発汗。
「医者だ、医者に連れていく!」
「待ってくれ。多分病気じゃない……」
突然、二人の前にフタバが現れた。
「ミカサ、そのままでいいんだよ」
「な、フタバ いつの間に!? お前、何だ、その目……」
血走った目。
性欲に飢えた野獣のよう。
後で知れることになるのだが、それはアルファの発情。ラット状態の姿だった。
「そいつは病気じゃねぇ。発情期。つまりヒートだ。オメガ特有のな」
「なんだと!?」
ミカサは、初めて聞く単語に戸惑いを覚えた。
「知らないのか? 今、シオンはオスを求めてフェロモンを出しまくってんだよ。みてみろよ。オトコを誘うエロい顔してんだろ?」
「シオン、お前……」
とろんとして潤んだ目。
頬に赤味が指し、男とは思えない程の可愛いさが滲みでている。
「なぁ、シオン。お前には分かるだろ? 優秀な男の子種、そうアルファの精子が欲しくてたまらなくなる気持ち」
フタバは、シオンのアゴをしゃくりながら言った。
「やめろ、フタバ!! シオンに触るな!」
ミカサは、フタバの手を払いのけた。
が、逆に、ドンっと突き飛ばされてしまった。
「ミカサ、テメェはすっこんでろ! 凡人が!! いいか? オメガは、アルファの子種と引き換えに性奉仕をする運命。さぁ、シオン。お前が望む事をしてやろう。感謝しろよ」
シオンは、わなわなと手を震わし、やっとの事で声を出した。
「……フタバ。や、やめてくれ……たのむ」
「体はそうは言ってないみたいだぞ?」
フタバは自分の親指を、シオンの口の中に突っ込み、口の中を犯し始めた。
「ううっ……」
シオンは、ぐったりとしてフタバに体を預け、言うがままになっていった。
****
ガチャ。キー。
しばらくして扉が開いた。
ミカサは、出てきたフタバの胸ぐらを掴んだ。
「フタバ、テメェ!!」
「くくく、なかなか良かったぜ。ったく、どれだけ求めてくんだよ。発情しまくりやがって。ふふふ。また、やってやるからな。あははは」
何事もなかったように立ち去るフタバ。
ミカサは、すぐに部屋に入り、シオンの元へと駆け寄る。
「シオン!」
「……俺は、どうしてこんな事に……ちくしょう、ちくしょう 俺を見るな、ミカサ!」
ミカサは、シオンを抱き抱え、きつく抱いた。
シオンの体はそれでも美しくも静かに呼吸していた。
****
フタバは、ミカサとシオンを無視し、目が合えばあからさまに蔑みの目を向ける。
まるでゴミでも見るかのよう。
なのだが、シオンが発情期になると何処からともなくやってくる。
アルファの性なのだろう。
「ここを開けろよ、シオン。お前の誘いに乗って来てやったんだぞ!」
ドンドン!
扉が乱暴に叩かれる音。
「うっ、ううっ……」
怯えるシオン。
ミカサは、シオンの頭を腕の中に抱く。
「シオン。ほら、可愛がってやるぞ。俺の子種が欲しいんだろ? ほら」
シオンは必死に耳を塞ぐ。
体は、フタバの事を欲してしまう。
それを理性で懸命に耐えようとしているのだ。
そんな、シオンをミカサは泣きそうな想いで守ろうとした。
「大丈夫だ! シオン。俺が守ってやるから!」
ミカサは、扉の向こうに怒鳴った。
「フタバ! お前は一人でオナニーでもしてろよ!!」
「ミカサ、またお前か!!」
ドンドン!!
荒々しく扉が叩かれる音。
「ミカサ!! ったく、てめぇは凡人のベータくせに、うぜぇんだよ! いちいち口出してくんなよ!!!」
****
フタバは、捨て台詞を吐き、去って言った。
根比べに勝ち、ミカサはホッとため息を付いた。
「行ったか……」
と、その時、胸の中でシオンが囁くように言った。
「ミカサ……挿れてくれないか?」
「え!?」
「恥ずかしい……で、でも、こんな事……お前にしか頼めないから」
美しく可憐な表情を浮かべるシオン。
ミカサは、ドキっとし、一瞬頭の中が真っ白になった。
辛うじて理性を取り戻す。
「……ゆ、指でいいか?」
「ああ、早く……そ、そこ……とっても気持ちいいよ、ミカサ」
それから、シオンの発情の度に、ミカサは慰めてやるようになった。
そんな因縁のある、フタバ、ミカサ、シオンの3人は、それぞれ成人となり、再び、男祭りで相まみえる事になったのだ。
****
男祭りはいよいよ数日後と差し迫った。
ミカサとシオンは、最後の調整にと、夕焼けを背に走り込みをしていた。
シオンは、首に掛けたタオルで汗を拭いながら言った。
「どうだ? 俺って結構、動けているだろ?」
「ああ、すごいじゃないか、シオン。見直したよ」
「ふっ。だろ?」
(どれだけ頑張ったんだよ、シオン。人並みに追いつくのさえ、どんなに努力したか想像も出来ねぇ。やべぇ 泣けてきたぜ)
ミカサは、無言でシオンに抱き付いた。
「おい! や、やめろよ!」
「悪りぃ……ついな。つい」
「ったく……まぁ、いいけどよ」
二人は、神社の階段を掛け降りていく。
ミカサは、後ろにつづくシオンに声を掛けた。
「しかし、これなら、いい線いくかもな。相手はフタバだ。身体能力だって半端ない。一対一じゃ、到底無理だが、俺たち二人がかりなら、互角に渡り合えるんじゃないかな。ん? どうした、シオン?」
「……ちょ、ちょっと待ってくれ。ミカサ」
振り返ると、シオンは座り込んでいた。
顔が赤く、火照った顔。
それは、ミカサがかつて良く見た表情だった。
「ま、まさか、今、お前発情期なのか?」
「ああ、でも大丈夫だ」
シオンは、手慣れた仕草で、ポーチからカプセルを取り出し口に放り込んだ。
ゴクリと喉が鳴る。
「ふぅ……いずれ、効いてくる。少し、待っててくれ」
「今のは?」
「ああ、抑制剤だ。こいつがあれば、ヒートでも大丈夫なんだ」
「な、抑制剤? そんな物があるのか? それ、何処で手に入れた?」
「ちょっとな……まぁ、秘密だ」
「大丈夫なのか? そんな得体の知れないものを飲んで……」
「安心しろ、出所は確かだ。お前も知ってやつからの紹介だ」
「俺が知っているやつ……そんなクスリを……」
ミカサは、思いをめぐらせた。
そんな便利なモノがあるとは知らなかった。
「……たしか、エリート育成研究所が秘密裏に再建されてるって噂を聞いた事がある。もしかしたらそこで開発されたものか? いや待てよ……」
シオンは、いつものミカサの独り言に、あきれ顔で言った。
「なぁ、ミカサ。お前って本当に優しいよな。どうしてだ?」
「はぁ! 今更かよ」
「幼馴染だからか?」
「別に……そんなの関係ねぇ」
「じゃあ 俺がオメガだからか?」
「な、まさか!」
「いいよ、隠さなくても。俺は、お前の同情を買えるのならオメガでも良かったって思ってる。いつも俺の味方でいてくれる。俺は卑怯者だよな。でも、俺にはお前しかいない。だから、礼を言っておくよ。ありがとう、ミカサ」
「……だから、違うって! オメガとかそんなの関係ねぇよ!」
「ありがとう、ミカサ……さぁ、行こう!」
シオンは、すくっと立ち上がり先に走り出した。
ミカサはシオンの背中を見て、呟いた。
「くそっ、俺はどうしてもっと強く否定出来なかった……言葉を詰まらせちまった。本当にオメガとか関係ねぇのに……」
****
男祭り当日。
それは、重々しい空気の中、開始の法螺が街中に響き渡った。
会場に集まった、数千規模の若い男たちが、フンドシ一枚の裸で、走り出す。
向かうは中央公園に設置されたヤグラ。
そして、その頂上に置かれた王座を目指す。
ただ、その途中で、無数の男同士の勝負が勃発し、次々とフンドシは剥ぎ取られていく。
男祭りのルールは簡単。
時間一杯になった時点でヤグラの上に設置された王座に座っていた者が、勝ち。
今年の『一番男』の名誉を預かれる。
チームで参加するのもよし、個人で参加するのもよし。
ただ、フンドシを取られた者は即敗北となる。
また、負けた者は、その場を自ら離れる事は出来ず、その恥辱に満ちた醜態を晒さなくてはいけない。
唯一、その場を離れる事が許されるのは、フンドシを取られる相手にイカされ、射精した時である。
いわば、魂を精子になぞらえ、魂の抜けた死人になれば解放される、という武士道の教えに基づく。
さて、開始10分程経った所で、フンドシを取った取られた後の男同士のイカせ合いが、至るどころで繰り広げられるようになった。
「や、やめてくれ……頼む……うっ」
「ふふふ、屈辱を味わえ!」
「いくっ!」
「ああ、ダメだ 気持ちいいっ、でるっ」
「イカしてやる!」
「や、やめろ……人前で……いっちまう……いくっ」
乱暴にしごかれ強制的にイカされる者。
口で丁寧に舐めれ、天にも昇る気持ちでイカされる者。
アナル攻めでイカされ、新しい自分に目覚める者。
そして、徐々に、男達は『男祭り』の空気にあてられ、本性を露わにしていく。
ある場所では、親友同士の告白が行われる。
「俺、実は前からお前の事、好きだったんだ!」
「俺もだ。いいぜ、お前の好きにして……」
「いいのか?」
「ああ、優しくな……うっ、そこっ」
また、別の場所では恨みつらみの上下関係からの復讐劇。
「や、やめなさい。話せば分かる」
「知るか! 日頃の恨み、思いしれ!」
「うっ、やめろ……あっ」
「あははは、汚ねぇ、こんなに出しやがって」
さらに、憧れの人への告白。
「あの、僕、あなたにフンドシを捧げます!」
「いいだろう、もらってやるよ。子猫ちゃん」
「ありがとうございます……ボク、とても嬉しいです」
「ふふ、可愛いじゃないか? さあ、お尻をこっちに向けて」
「あっ、そんな……すごい。僕、幸せっ」
素の男達のドラマが垣間見られる。
観客達は、そんな甘くて尊い男達の姿を、自分事のように重ね、会場全体を巻き込んだ『男祭り』という世界感が形成されていくのだ。
そんな、フンドシ一枚の男達が群がる中、疾走しながら次々とフンドシを奪うペアがあった。
「次、いくぜ、シオン」
「ああ……了解した、ミカサ」
美形の二人に襲いかかる男達。
「オラー!!」
二人は、示し合わせたように、サッと避け、そしてすれ違い様にはやてのように相手のフンドシをかっさらう。
「お前らみたいなイケメンが目ざわりなんだよ!」
次々と襲われる二人。
しかし、その度に、返り討ちに上げる。
戦果は、十枚、二十枚、と数えきれない。
一通り落ち着いた所で、シオンとミカサは、腕を高く上げ、パーンと手を叩き合った。
「ミカサ、俺たちのコンビネーション。息ぴったりだな」
「ああ、シオン。お前も調子良いみたいだな」
そこへ、剥ぎ取られた男の怒鳴り声が耳に入った。
「おい! お前ら! フンドシ取ったんならちゃんとイカしてくれよ! おら!」
勃起したものを突きだす。
ミカサは、吐き捨てるように言った。
「俺たちにそんな暇はない。他のやつに頼めよ!」
「くそっ、何て奴らだ!!!」
叫び声を背に、次へと走り出す二人。
シオンは、襲い掛かる男達を交わしながら、ミカサに声を掛けた。
「なぁ、思い出すな。ミカサ。小学生の頃のドロケイ」
「ああ、確かにな……」
それは、小学生の頃。
まだイチゴが覚醒する前、4人でよく遊んだドロケイ。
ミカサとシオンがペアの時は最強だった。
勝利を決め、手を合わせて鳴らす。
パーン!
「また俺たちの勝利だな! シオン!」
「ああ……最強ペアだぜ、俺たちは。なぁ、ミカサ!」
フタバは、口惜しそうに地面を叩く。
「何で俺が負ける! もう一度だ! くそ! くそ!」
一方で、イチゴは、素直に負けを認めた上で、二人を労った。
「確かに、お前ら。本当にいきピッタリだな。参ったよ」
「へへっ、だろ? なぁ、シオン」
「ああ!」
「じゃあさ、ミカサ、シオン。お前達、将来、結婚しちゃえよ」
イチゴの言葉に、ミカサは驚き戸惑った。
「え!? 結婚!? ば、バカ! 俺たち男同士だってんの。結婚なんか出来る訳ねぇじゃん。なぁ、シオン」
「う、うん……」
「へ!?」
シオンは、顔を真っ赤にして俯いていた。
そして、ミカサを上目遣いに見つめ、恥ずかしそうにはにかんで言った。
「そ、そうだな、結婚は出来ねぇな」
トゥンク……。
(え、なにこれ?)
良く分からないが、胸がドキドキして止まらない。
理由も分からず、シオンの事が可愛いく見えるし、なんだが恥ずかしい。
「何、間に受けてんだよ! シオン!」
「ちげぇよ! ミカサ、勘違いすんな!」
「はぁ? 何を勘違いしたって!?」
そんな言い争いをした思い出が浮かんで消えた。
(あれがきっかけだったもんな。忘れる訳ねぇよ)
ミカサは、思い出を書き消して、シオンに声を掛けた。
「さぁ、最強ペア復活だぜ! いくぜ、シオン」
「おう!」
****
中央広場付近。
ヤグラ周辺は、男達でごった返しになっていた。
あちらこちらで、雄叫びが聞こえる。
ただ、その中で、円形の空白地帯が出来ていた。
その中心にはフタバの姿があった。
「あいつに近づくな! やばいぞ! あっ、取れらた……」
「逃げろ!! うっ、いつの間に……」
フタバは、高い身体能力で、次々と群がる男達のフンドシを奪っていく。
そして、剥ぎ取られた男達は、フタバの部下によって、オナホによる容赦ない強制射精で退場させられていた。
「フタバ様。ヤグラをほぼ制圧しました……」
「そうか……分かった」
「さぁ、どうぞ。王座に」
「うむ」
フタバは、王座へとゆっくりと歩みを進める。
(男祭りは、俺の名を上げる絶好の機会。あのイチゴが市長としてのし上がったように、俺も後に続く。建築デザイナーを足がかりに、有力者との強いをコネクションを手に入れ、そして、財界の中枢へと入り込む。その為にはこのような退屈な凡人達との戯れ合いにも付き合わなくてはいけない。我慢だ、フタバ)
フタバは、王座に座った。
ふと何かに気が付き、クンクンと鼻をわずかに鳴らした。
にやりと笑う。
「しかし、嬉しい誤算……楽しみが出来た。分かるぞ。これは、シオンの匂い……微かに匂う。近くに来ている」
そして、いきりたつ股間の自分のものを見て、薄笑いを浮かべた。
「シオン、ここまで来てみろ。お前の求める物はここにあるのだから……ふふふ」
****
残り時間15分を切った。
男達の宴もいよいよ大詰め。
参加人数は明らかに減った。
おそらく1割に満たないだろう。
生き残った者達は、中央広場に集まり出す。
ここからは、王座を巡っての攻防戦。
ミカサとシオンも動き出す。
「さぁ、ミカサ。そろそろ行こうか?」
「ああ、ウォーミングアップは終わりだ」
「フタバを倒しに!」
一斉に言葉にした。
****
ヤグラの頂点、王座。
フタバは、そこに悠々と腰かけ、周りを観察する。
フタバのチームが見事に防衛に成功している。
最初こそは、群がるように押し寄せてきたのだが、とても敵う相手では無い、と悟ると王座に挑んでくる者は居なくなった。
生き残りで勝利で十分、と妥協したのだろう。
フタバは彼らに蔑みの目を向ける。
「臆病者が……まぁ、仕方ないか。所詮はベータなのだから……」
と、そこへ部下の声が聞こえた。
「二人組が挑戦して来たぞ! 防衛ラインを引け!!」
フタバの目にその者達の姿が入った。
フタバは口元を緩めた。
「ふっ、来たか。シオン……お手並拝見だな」
****
現場の指揮を採ってる部下の一人が言った。
「いけ!! 5人がかりだ!」
猛者達が一斉に二人に襲いかかる。
背中を預け合うミカサとシオン。
互いに死角を補いつつ、円を描くように動き出す。
それはまるで、一つの生き物のよう。
猛者達の攻める手立てを奪い、逆に攻勢へ。
あっという間に、全員のフンドシをかっさらった。
5人抜きである。
フタバの部下達は怯み、後退りした。
それを見ていたフタバの側近が言った。
「フタバ様。中々の手だれのようです、私も応援に向かいます」
「待て! 私が行く。手出しをするな」
フタバは、王座からゆらりと立ち上がった。
****
「フタバ! 出てきたな!!」
シオンは、フタバの姿を視界に入れるとすぐさま叫んだ。
フタバは余裕の表情で答える。
「シオン。わざわざ俺に抱かれに来たか? そんなに雄のエキスが欲しいか?」
あからさまな煽り。
なのだが、シオンは挑発に乗ってしまった。
顔を真っ赤にして喚き散らかす。
「ふざけるな! 俺はお前を倒す為だけにここにいる! 覚悟しろ、フタバ!」
「オメガのくせに、俺を倒す? あははは、笑わせるなよ! 大人しく素直に俺のものになっていればいいものを。泣いて頼めば今からでも性奴隷にしてやってもいいぜ」
「貴様!!」
「バ、バカ! シオン! 挑発に乗るな!」
ミカサは、暴発しそうなシオンの肩に手をやり押さえ込んだ。
しかし、シオンは、それを振り払いフタバ目掛けて突撃した。
フタバは、見切りでかわす。
「おっと、危ない危ない。いや、中々の動き。オメガにしてはやるな、シオン。そんなに激しい動きが出来るのは、ベッドの上だけかと思っだぞ。ヒヒヒ」
「フタバ! お前だけは絶対に許さない!」
怒り狂う猫のよう。
鬼の形相で、フタバを睨む。
「落ち着けよ! シオン!」
ミカサの声も耳に入っていない。
奇声を上げて猪突猛進を繰り返す。
それら全ては、フタバにあっさりと交わされてしまった。
そして、疲弊したシオンは、逆にフタバの虜に。
両手首を抑えられ、身動きが取れない。
「くそっ……」
「だから言っただろ? お前じゃ、俺の足元にも及ばないんだよ。さぁ、フンドシを頂き、思う存分シコらせてもらうぜ」
「そうはいかない!」
突如、シオンはフタバに抱きつき、自分の両手をフタバの背中でロックを掛けた。
相手の動きを封じるハグ。
「なんだ!? 往生際が悪いぞ」
身動きが取れず、右往左往するフタバ。
ミカサは、ここぞとばかり指を鳴らした。
「よくやったぞ。シオン!」
「な、シオン。お前……これを狙っていたのか?」
「フタバ、俺たちが最強コンビだって事、忘れてないか?」
シオンは、笑いながら言った。
「俺の演技に騙されたな、フタバ。お前の安っぽい挑発なんかに乗るかよ、バーカ」
「形勢逆転だな。手を離すなよ、シオン」
「おう!」
必死に押さえ込むシオン。
ミカサは、すかさずフタバのフンドシを取りにかかった。
「くっ」
絶望の表情を浮かべるフタバ。
ところが、もう一歩のところで、するりと抜けた。
「え!?」
呆気に取られたミカサ。
膝をつき、はぁ、はぁ、と苦しそうに息をするシオンの姿が目に入った。
「どうした? シオン」
「ごめん、力が抜けて……あれが……抑制剤の効果が切れたようだ。こんな時に……」
それは、ヒートのせいである事は明確。
フタバは既に体勢を整えており、余裕の表情を浮かべた。
「ふふふ。どうやら、俺の勝ちのようだな。凡人だと思い少し油断したが、一対一なら負けはない。へへへ、可愛い顔してもう俺を誘惑しているのか? シオン。濃いフェロモンが出てるぞ」
「違う!!」
「可愛がってやるよ。たっぷりとな。だが、ミカサ。お前が先だ。お前を倒してからゆっくりとシオンを頂く。さぁ、行くぞ!」
フタバは、ミカサとの距離を詰める。
シオンの叫び声が響く。
「に、逃げるんだ! ミカサ! 俺の事は放っておけ! アルファ相手じゃ絶対に勝てない 分かるだろ!」
「よく分かっているじゃないか? さすがオメガ。身をもって知るってやつだな。アナルの奥でな。くくく……さぁ、ミカサ! アルファとベータの差を見せてやるよ!」
「逃げろ!! ミカサ!!!」
フタバは、躊躇なくミカサに襲いかかる。
「凡人如きが!!」
残像が残る程の高速移動。
何度も何度もミカサの背後を取ろうとする。
しかし、その度にミカサは絶妙なタイミングでかわし、いつまでたっても状況に変化がない。
フタバは、とうとう息が上がり足が止まった。
混乱するフタバ。
「はぁ、はぁ……これはどういう事だ?」
と、額の汗を拭いた瞬間。
瞬間移動をしたかのように、フタバの背後にミカサが現れた。
耳元で囁く。
「なぁ、フタバ。ところで凡人ってだれのことだ?」
「な、なに?」
フタバは苦し紛れに、振り返りざまミカサのフンドシを掴み取ろうとした。
が、それも空振り。
にやり、と微笑みを湛えたままのミカサ。
その表情に、フタバは一抹の恐怖を覚えた。
「な、何を今更! ミカサ、貴様は凡人のベータだろうが!!」
フタバは、ミカサに再度襲いかかる。
が、ミカサは赤子の手を捻るように、少しも無駄もない動きでフタバのフンドシを剥ぎ取った。
一瞬の事だった。
「な、どうして!! お前、まさか……」
フタバは、顔をひきつらせた。
ミカサの低い声が響く。
「言ってなかったか? 俺はとっくにアルファを覚醒している。学生の頃からだ」
驚きを隠せない。
手がプルプルと震えせて呆気に取られるフタバ。
「な、なんだと? それなら何故、エリートコースに進んでない? 金、名誉、名声。簡単に手に入るはずだ」
「俺にはそんな物は要らない。俺は、シオンが全て。ただシオンが喜ぶ事だけをする。それが俺が美容院を続けている理由だ。金、名誉、名誉? そんな物は要らない。愛こそが全てだ」
「愛だと……俺は愛なんぞに負けたというのか」
フタバは、そう言ってその場にガクリと崩れ落ちた。
ミカサは、手にしたフタバのフンドシを放り投げ、シオンのもとへと駆け寄った。
シオンは、泣き笑いでミカサを迎える。
「……ミカサ」
震える手を伸ばす。
ミカサは、その手をがしっと受け取り、スッと引き上げた。
そして両手のひらを合わせ恋人結びでギュッと握り締めた。
見つめ合う二人。
沈黙のひととき。
ミカサは、口を開いた。
「シオン、俺はお前が好きだ。愛している。それは昔から変わらない……」
「ミカサ、きっと俺もお前を愛している。昔から……」
シオンは、小首を傾げてはにかんだ。
「……だから、ミカサ、俺を抱いてくれないか?」
「いいぜ」
それから、二人は互いのフンドシを外し合った。
全裸になり固く抱き合い、甘くて優しいキスを交わす。
そして、二人は繋がった。互いに精子を放ち合うために……。
****
すっかり陽が落ちた。
祭りのクライマックスである花火が窓の外にでかでかと見える。
ここは、とある高級ホテルのスイートルーム。
ミカサとシオンは、裸のままベッドの中にいた。
ミカサは、シオンを胸に抱き髪を撫でる。
「結局、人前でやっちまったな」
「ああ……やっちまった」
ヤグラの上で、熱く甘い男同士のむつみ合い。
会場の注目は否が応でもにも集まった。
ストリーミングのライブ映像にも乗っただろう。
「でも、ミカサ。俺、不思議と全く恥ずかしくなかったよ」
「ああ、そうだな。俺たちの愛を堂々と証明出来た。見てる人たちが見届け人。まさに人前式だな」
「人前式?? お、お前、それって、結婚式って事だぞ?」
「あれ? 何かおかしいか? 俺は、そのつもりだったが……」
「は、はぁあ!!」
ミカサは、涼し気な表情で済まし顔を決め込んでいる。
シオンは、しばらくの間、そんなミカサを驚きを持って見つめていたが、それが真意だと読み取ると、嬉しさが溢れんばかりに込み上げてきた。
「……ま、まぁな。お、俺だってそのつもりだったぜ」
「ふふふ、お前のそんな顔、見るの二度目だ。シオン……」
「ん? 何か言ったか?」
「お前は、可愛いって言ったんだよ」
「な、何だよ、急に気持ち悪りぃな……で、でもよ……ありがとう」
シオンは、頬をポッと赤く染め、目を逸らした。
ミカサは、そんなシオンの事を愛おしげに見つめた。
幸せな時間が過ぎて行く。
じっと、互いの体温を感じているだけで、二人の愛の軌跡がなぞられて行く気がした。
シオンは、ふとつぶやいた。
「……そ、そう言えば、フタバの顔みたか? 悔しがる顔、傑作だったな」
「ああ、良かったな、シオン。念願が叶って」
じつは、シオンにとって、フタバの事などもうどうでも良くなっていた。
一番気になっている事をミカサにぶつけた。
「ミカサ……何故アルファを覚醒してるって言わなかった?」
「俺がシオンを愛している事には全く関係ないからな」
「……しかし、俺のフェロモンに耐えるのって辛くなかったのか?」
「辛いさ。何度、お前を抱きたいって思ったことか。でも俺はお前にマジで惚れてっから、そういうののせいにしたくなかった。フタバと同じになっちまうからさ」
「み、ミカサ……」
嬉しさが溢れる。
シオンは、堪らずにミカサの胸にギュッとしがみついた。
「俺も今なら分かる……ミカサといると落ち着く。何故そうなのか? 無条件に惹かれていた理由。オメガとかアルファとか関係ない。ただ、お前の事が好きだったんだ」
「……そうか」
ミカサの手がシオンの肩に触れた。
「さて、そろそろか?」
「分かるのか?」
「当然! どれだけ俺がお前のフェロモンの誘惑に耐えていたか、知ってるだろ?」
「……そうか、俺、もう我慢出来ないんだ。頼む。今日のは、いつもとは違う。特別な感じなんだ……」
****
絡み合う男達の体。
激しく求め合い、むさぼり合う。
そして、再びミカサのモノは、シオンの中へと入って行く。
シオンは、自分のお腹を大事に抑えてつぶやいた。
「俺、幸せ。体の中でミカサを感じる事が出来る。でも、俺、変な感じなんだ……今、お前の赤ちゃんが欲しい、って、心の底から思っちまう……こんな気持ち初めて」
「シオン、俺たち、番 にならないか? そうなれば、もしかしたら、男の体でも子を宿すかもしれない……まだ、症例はないって聞くけど」
「そうだな。でも、番になったら、もうお前が俺のフェロモンに耐える姿見れなくなるな……それはちょっと」
シオンは悪戯っ子の顔をした。
ミカサは、シオンの頭をコツンと叩く。
「てめぇ!! それは番と関係ねぇだろ!」
「あははは。うそ、うそ」
「……俺は、別にお前が発情してなくたって、いつでもやりてぇんだ。だから……」
いつものミカサのぶつぶつ呟き。
だた、今のシオンにとって、それはとても愛しく思えた。
「ありがとうな、ミカサ。さぁ、俺をお前のものにしてくれ。頼む」
「ああ」
ミカサは、シオンのうなじにキスをした。
そして、歯を優しく立てた。
「シオン愛してる……」
ほんの少しの痛み。
シオンの目に嬉し涙が溢れた。
「ミカサ、一生俺のそばにいてな。俺もお前を愛している……」
二人はこうして運命の番となった。
テーブルの上には、一枚の手紙が有った。
『おめでとう、ミカサ、シオン。この部屋は俺からのささやかなプレゼントだ。受け取ってくれ。変わらぬ友:イチゴより』
ともだちにシェアしよう!