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別れあれば出会いあり

(ヒョウ)はあっさりと返事をし、いつにするか聞かれたから考えて三日後と答えた。 俺はその三日の間に来栖会いに行って人間の世界に戻ることを伝えたり、コケ蔵に挨拶したり…… 世話になった妖たちにお礼を行って回る。 その間は表は一切家から出ず俺とも顔を合わせようとしなかった。 襖を妖術で閉じているのか俺の力では全く開かなかった。 俺が声をかけても返事も返ってこなかった。 三日後の朝、俺は人間お世界で着ていた服に袖を通す。 妖の世界に来てからはオムツやら紐パンやら、他はでかい表の服着てたからピッタリとした自分の服はすごく久々に感じる。 鏡を見ながら服装を正す。 俺は表が閉じこもっている部屋の前に立つ。 ドアじゃないからちょっと変だけど襖をノックする。 表に呼びかけるが変わらず返事はない。 仕方ないので襖に背中をつけるように座り話しかける。 「なあ表、俺、表に拾われてよかったよ」 「……」 「表がいたからさ、ここまで妖の世界に馴染めたと思うんだ。 表じゃなかったら来栖とかコケ蔵とかこっちで友達なんてできなかったと思うし」 「……」 「……本当は、少し、帰りたくないなって気持ちもあるんだ」 「お主は帰らねばならぬ、そして妖の世界に二度と来るでない」 表からはっきりとした返事が返ってくる。 驚き振り返るが以前として襖は開かない。 俺はまた背を向け表に話しかける。 「なんでそんなこと言うんだよ」 「お主は人間じゃ、妖と人間は同じ時など過ごせぬ。 迷い込んできた故に匿ってやったが、帰ると言うなら早くいなくなってしまえ。 わしは元々人間は嫌いじゃ。もう二度と顔を見せるでない」 「表、なんでそんなこと言うんだよ!  表は、人間と妖のこと研究して、また昔みたいに人間と妖が共存できる世界を作ろうとしてたんじゃないのかよ!」 「そんなこと考えておらぬ! お主を騙すために嘘をついていたに決まっておろう。 人間は騙しやすいからの。 人間の、お主はもう二度と来るでない! わしは、わしは金輪際会いとう「表!」 表が言い切る前に俺は首輪についた表のタグに呼びかける。 風が巻き起こったと思うと表の目の前に座っている。 表は驚き、そして頬が涙で濡れている。 表の瞳が赤くなった瞬間、俺は表に抱きつく。 「こ、この人間の、離れぬか!」 「離さない! 表、妖術使って俺をどっかに飛ばそうとしてんだろ!」 「……」 ぽたぽた、と上から雨が降り始める。 俺は顔をあげずさらに表を抱きしめる。 「表、俺はさ、帰るよ。けど、それは一旦帰るだけ。 また絶対帰ってくるよ」 「……できるわけなかろう、妖と人間の世界は完全に別れておるのじゃぞ。 人間の世界でそのタグを使ったところで、否、そもそも持っていけるのかも不明じゃ」 「表に言ってなかったけ? 俺、家がさ、妖に詳しんだよ。 だったら何かしら人間と妖の世界を行き来する方法も知ってるんじゃないかって思うんだよ。 だから」 俺は顔をあげ、未だ涙を流す表の顔を見る。 「絶対帰ってくるからさ、その時までこっちで待っててよ。 何年かかっても、必ずまた表に会いにいくから」 表の瞳が揺れる。 赤と黄色が混じっているのが揺れている焚き火のようですごく綺麗だ。 表は目を瞑ったかと思うとはあとため息をつく。 「……お主一人でできるわけなかろう、お主は阿呆じゃし」 「は?!」 「……わしも、お主……影道が帰ってくるまで待っておろう。 まあ、期限は必要じゃろう、そうじゃな…… わしの尻尾がもう一本増えるまでに帰ってくるんじゃ」 「……ちなみに次尻尾生えるのいつ?」 「ふむ、今わしは六九八歳故、二年後じゃな」 「時間ねえじゃん!」 慌てて表から離れ、服装を正す。 そして表を指差す。 「絶対に二年後までに戻ってきてやるからな!  絶対に絶対に勝手にいなくなんなよ!」 「……ああ、わかった」 表が赤くなった顔で俺と目を合わせる。 「では、またの」 「うん! またな!」 ぐいっと俺の体が強い力に引っ張られた、と思うとコンクリートの道路の上に座り込んでいた。 きょろきょろ辺りを見回せば周りにいるのは妖、ではなく人間だ。 道路に座り込んでいる俺を遠巻きに眺めている。 俺は立ち上がり尻についた砂埃を払う。 首に触ると妖の世界でつけていた首輪がついたままになっている。 表と来栖のタグがついているが呼びかけても反応はない。 俺は走って家へと戻る。 今は制服着てるしどっちかと言うと学校行かなきゃいけなんだろうけど。 けど今はそれより重要なことがあるからな。 「絶対待ってろよー! また会いにいくからなー!」

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