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番外編 傷ついたので
帰ってきた志乃は、右手で目元を覆い天井を仰いだ。
何が起こっているのかわからなくて、理解をするのにいつもより何倍も時間がかかっていた。
家に入った途端、黒髪ロングのエロいナース服を着た梓が、恥ずかしそうな顔で立っていたからだ。
「あ、あの……志乃、おかえりなさい……」
「……」
「ぅ、あ、お、おこって、る?」
「……ちょっと待て」
素っ気なく言葉を落として、冷静になれるように目を閉じる。
着ていたジャケットを脱ぎ、時計を外し、スラックスとポケットに入れていた財布を机の上に置いて、フーッと息を吐いた。
「なんの真似だ」
「……み、みりょく、を」
「はぁ?」
志乃は梓の言っていることが全く理解できなかった。
みりょくを魅力と変換に成功したまではいいが、だからなんだと思った。
「セックスしたくない、って……俺に、魅力が無いから……」
「は?……ああ、なるほど。そういうことか」
恥ずかしくて悲しくて言いたくなかったことを殆ど言わされた梓は、目に涙の膜を張る。
「それで、あの……こんな格好を、してみました」
「そんなのどこで手に入れた」
「あ、立岡さんに連絡して、一緒に買いに……」
「あ?」
そこで志乃はブチ切れた。けれど表情は変えずに「どこまで?」と問いかける。
「〇〇駅の近くのアダルトショップ」
「あー、はは。わかった。お前、さすがに肝座ってるな」
「お、怒ってる、また怒ってる」
「そりゃ怒るだろ。おい、逃げるな。こっち来い」
梓は『まずい』と思った。
志乃は目を据わらせ、抑揚のない声で梓を呼ぶ。
怖くなった梓はそれでも、魅力を感じてもらいたいという思いが強くて、グッと眉間に皺を寄せ志乃に近づき、その胸ぐらを掴んで引き寄せ、ブチュッと下手くそなキスをする。
「お注射、してください。」
「……」
恥ずかしい言葉を吐いて、首に腕を回し抱きつく。
志乃は数秒固まって、漸く梓の背中に手を回した。
「お、前、何……」
「ぬ、脱がせて……?」
「ン」
志乃は柄にもなく鼓動を激しくさせ、ギュッと目を閉じた。
なるほど。梓は勘違いからとんでもないことを始めたんだと思った。
■
ここで断るのはあまりにも酷いと思って、誤解を解くのは後回しにすることにした志乃は、梓を寝室に連れていく。
ベッドに座らせ、ニーハイソックスのお陰でムチッとした太腿をいやらしく撫でた。
「ぁ……」
小さく聞こえた声はいつもより震えているような気がして、チラッと顔を見ると、大きな目を閉じて手で口元を隠している。長い黒髪が手に引っかかっていた。
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