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疑問 4

「⋯⋯⋯さむぃい〜⋯!まだだめ!まだ寒いからっ!」 「⋯しつこい。何回も相手してやっただろ⋯もう良いから、さっさと起きろ」 「アキのいじわる⋯何回だって抱きしめてくれたって良いのに⋯」 何だかんだ気が付けば、遊ぶ約束をしていた当日がやって来てしまった。ゲーセンに行くことも、嵐と遊べることも、楽しみなこと尽くしな事に変わりは無いけど⋯⋯⋯吉村も居るんだよなあ。 今のうちアキに沢山甘えてしまえ!!と寝起き早々色んな理由を言い訳に触れる機会を求めて、アキも最初のうちは素直に応えてくれていたが段々めんどくさくなってきたのらしい。失礼な。 強引にアキを抱きしめていた腕を剥がされて先にベッドから降りてしまったその言葉に口を尖らせながら、それでもそろそろタイムリミットが迫っている事はちゃんと理解はしている。 ⋯⋯⋯仕方ないなぁ。 渋々アキの後に続いてベッドから降りて腰を上げれば、ダラダラと洗面所まで向かい顔を洗ったり歯を磨いたり、朝の支度を済ませる。⋯⋯マジで水が冷たくて死ぬかと思った。 厚着に厚着を重ね、しっかりと防寒していく。モコモコとした見た目になっちゃったけど、「お前はいつも体が冷えているから」とアキに指摘された結果であって、まあこんくらいが丁度良いのかもしれない。 アキの方はと言えば、普段通りモノトーンでそんなに色味のない格好で行くのらしい。まあ、アキっぽいっちゃアキっぽいか。最後に鏡の前で髪の毛を一纏めにして、首にもしっかりマフラーを巻いていく。ほんとにもっこもこだ。 「あき〜!いこ!!」 「⋯⋯忘れもんとか無いか?」 「だいじょ〜ぶ!ちゃんと財布も持ったし、携帯もあるし⋯鍵もおっけ!ばっちり」 「じゃあ行こうか」 最後に促されるままカバンの中身をチェックする。うん、大丈夫そうだ。 俺の言葉を確認した後、最後に戸締り確認までしっかりしているアキの後ろ姿を見送りながら先に玄関まで向かう。やがて後ろから静かな足音が聞こえてくる事を確認して、靴を履いて立ち上がればアキに場所を譲る。 「⋯⋯っやっぱ今日さむいね〜!」 「あ〜、そうだな。また冷えるってテレビでも言ってたし」 厚着をしてても感じる冷気にぷるぷると震える身体を擦りながら、アキが玄関から出た事を確認して鍵を閉める。 すぐにその隣に並んで腕にしがみつけば互いに身を寄せ合う事で寒さを凌いでいく。 「⋯⋯⋯もう顔赤くなってんじゃん」 「えぇ⋯?⋯⋯アキだって、俺と変わんないと思うけど」 俺の顔を覗き込むアキに視線を向ける。伸ばされた指先で頬を擦られながら指摘された事は、アキにも全く同じことが言える事で。色素が薄い分、俺より血色に関してはアキの方が反応が早いだろうとその顔を見つめるが、ん〜まあ⋯よく分かんないかも。 やがて約束の場所まで辿り着く。寮のエントランスに、10時に集合で。と先日決めた時間の5分前には到着出来たらしい。 っと、⋯⋯⋯あれ⋯意外。 「⋯⋯あ!やっほ〜!!⋯おはよお!⋯⋯なんか初めて2人の私服見たかも」 「はよ。それは同じセリフ」 「ん〜確かに!」 俺達よりも先に着いてたのらしい吉村を見つける。こういうとこはしっかりしてるんだな。 緩めのダボッとした厚めのタートルネックにデザイン性のあるジャケットを羽織り、タイトなパンツを合わせている。普段は陰毛だと勝手に馬鹿にしてる髪型も、今日は巻き緩めで前髪を軽く掻きあげて耳にかけている。 ⋯⋯⋯まあ、別に顔が悪く無いのもムカつくけど。そんなんだから余計にモテて調子乗るんだろうな。 制服の時とは違う雰囲気の吉村に、ぐっと言葉を詰まらせながらも、それを隠すようにアキの後ろにくっついて残り1人、嵐の到着を待つ。 「⋯⋯なんか羊みたいだね、夕は」 「⋯⋯は?ひつじ⋯?」 「そ。もっこもこしてて暖かそうだから。⋯⋯制服の時より私服の方が幼くなんのウケる」 「なんっ⋯⋯!子どもみたいって言ってんのか?!」 「可愛いね、って褒めてるんだよ」 朝から早速ですか。馬鹿にされてるのかなんなのか、いや!コイツの場合は100パーセント馬鹿にしてるに決まってる。ギリっ、と力強く睨みつけながら、「あっちにいけ!」と言葉で虚勢を張るが、更に笑われるだけで話にならない。 くっそ〜⋯!!やっぱコイツ居ない方が絶対良かったじゃん! 「⋯⋯⋯悪い悪い!!お待たせ!!」 「⋯あ、嵐来た。」 「寒すぎて布団から出れなくてよお⋯気付いたらギリギリになっちまった⋯待たせて悪かったな」 「いや〜全然??俺達も今来た所だし、って⋯⋯嵐は相変わらず嵐なんだなぁ。チャラい男すぎ〜!でもそれも好き〜!!」 「⋯⋯行くぞ」 遅れて走ってやってきた嵐の足音に気付き、視線を向ける。相当慌てて来たのか少し息が上がってるが、さすが運動部。すぐに息を整えて両手を合わせ何度も謝っている。 ⋯確かに、初めて嵐と会った時と同様に今日もなんかヤンキーっぽい格好をしている。⋯⋯この時期にダメージジーンズって⋯漢すぎ⋯⋯。じゃらじゃらとしたアクセがまた更に印象的で、早速嵐に釘付けな吉村の姿を白い目で見ながら先を歩き出したアキに続けて目的の駅まで歩いていく。 「ってかさ、みんな朝ごはん食べてきた?」 「いや〜⋯まあ俺はご察しの通り、寝坊した身なんで⋯」 「俺達も結構ダラダラしちゃったからまだ食べてない」 「じゃあさ!ゲーセンに行く前にその近くのカフェに行かない?結構良い雰囲気のカフェがあるんだよね〜。ご飯も美味しいし」 そう言えば、朝ごはんを食べそびれていた事を思い出す。アキに構って貰ってた分結構時間が押してしまっていて、何も食べずに部屋から出てきてしまった。⋯⋯思い出した途端、余計にお腹が空いて来ちゃった⋯ 「マジでそれ助かる〜!!神!さっきから腹空きすぎてずっと腹が鳴ってんだよねえ⋯毎日朝ちゃんと食べないとやってけねえんだよなあ〜」 「俺もお腹すいたかも⋯⋯アキも、さっき何か食べたいって言ってたもんね」 「あぁ。俺もそれだと助かる。余裕で腹減ってるわ。」 「じゃあそれで!」 結局全員が同じ意見だと確認した吉村の言葉に、良かった〜!と安堵のため息をはき出す嵐の姿。よっぽどお腹空いてたんだろうなぁ。 アキも、部屋を出る前に何か食えるもんあったら買いたい。と話していた分、タイミングが良い提案だと乗り気で答えている。 一旦ゲーセンの近くまで移動する事に変わりは無いのらしく、ワイワイと他愛の無い会話を交わしながら駅まで向かえば改札を通り、時刻通りにやって来た電車に乗りこんで。
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