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疑問 3

「⋯⋯⋯でさ、嵐はどう?久しぶりのゲーセン。部活が忙しいなら別に無理しないで良いけど」 「え〜?!行く行く〜!!一緒に出掛けんの初じゃない?!」 「⋯⋯吉村に聞いてねえよ。ってか、早くクラスに帰れ」 「お、丁度その日活動休みだって言われてたわ。良いんじゃない?4人でゲーセン。めっちゃ楽しそう!」 「⋯⋯⋯⋯⋯4人⋯で⋯⋯」 クラスに戻り、まだ昼休みの時間的にも余裕があるからとアキと俺の机を囲むように適当に会話を交わしていれば、ぼんやりとスマホを見つめていたアキの表情が突然驚いた表情に変わると共に知らされた、ゲーセンに俺らの好きなゲームの新商品が入るらしい。とのビッグニュース。 色んな種類でピックアップされるらしい景品のラインナップを見せてもらいながら、それなら早速行かねば!!と意気揚々と嵐にお誘いの言葉を投げかけた。⋯⋯筈だった。 そう言えば、その存在をすっかり忘れていたけど、ちゃっかりいるんだよなぁコイツ。 全ての会話を聞かれてしまった挙げ句に一番乗り気で反応されてしまえば、いつまで一緒に居るんだと愚痴を漏らすものの嵐の言葉が決定打となり、結局4人での遊びの約束が出来上がってしまった。 ⋯⋯⋯⋯最悪だ。 そうだ!アキなら! 俺のこの気持ちをわかってくれるだろうとアキに標的を変えて同情してもらおうと擦り寄ってみたが、当の本人は未だにケータイに夢中で嵐とそのラインナップについて話し込み始めてしまった。⋯⋯相変わらず吉村には興味無し、と。 「⋯残念でした〜」 「⋯⋯⋯うっさ。ほんとにお前のこと嫌いだ」 「俺は夕の事だいちゅき。ちゅっちゅ」 「きっっっも!」 俺の意図にちゃんと気付いてたのらしく、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら俺のほっぺをツンツン、とつついてくる吉村の腕を叩き落とす。 こいつの近くにいると毎回めんどくさい事になる。 吉村から逃れる様にアキの背後に回れば椅子に座ってるアキの腹部に腕を回してぎゅっと抱きつく事で、さり気なく俺の存在をアピールする。 まだニヤついている吉村からの引くほどの好意と投げキッスに、「おえっ」と思いっきり眉を寄せて怪訝な表情を見せてやったが、そんな俺の事など気にかけることも無く、やけに満足気な表情で「じゃあ、また後でね〜」と何事も無くアッサリ自分のクラスに戻っていく吉村の後ろ姿。 ⋯⋯⋯なんか負けた気持ちになったじゃん。ヤダ。 「ね〜えアキぃ!!なんで吉村の事駄目って言わなかったの」 「まぁまぁ。人が多い方が楽しいだろうし、吉村もそんなに悪い奴じゃないだろ?」 「悪い奴でしかないから嫌なの!」 「⋯⋯夕、そんな邪険にしてやるな」 「⋯⋯っアキの馬鹿」 俺の言葉はとことん理解して貰えないのらしい。嵐は、まあ、優しい奴だしその言葉は認めたくないけど人柄の良さから出る妥協案だろう。けど、アキまでも吉村の味方になってしまえば、それは話が違う。ほんとに吉村と何かあった人間から出る言葉なの?それ。 怒りが収まらず、ぷんすかとアキに抱き着いたまま小言を呟き続けていれば、タイミング悪く昼休みの終了を知らせるチャイムの音。やがて周りもそのチャイムの音を合図にして自分の席に戻ったり授業の準備を始めてザワザワとし始めた為、嵐も自分の席に戻ってしまった。 「ほら、授業始まるだろ。席に戻れ」 「⋯⋯⋯俺まだ怒ってるからね」 「分かったから。先生に怒られる方がお前も嫌だろ」 「⋯ふん。」 戻れって言われても、俺の席ってアキの目の前なんですけどね!頬を膨らませながら意地でも機嫌の悪い事をアピールし、アキに促されるまま自分の席まで戻る事にする。 まったく⋯せっかくの休みの日もアイツと一緒かよ 別に吉村の事が本気で嫌いとかそう言う訳では無いが、アキにわざとちょっかい出すから気に入らない。それだけの理由だけど、俺にはとっても大切な事なのだ。それさえなければ別に普通の友達として遊んでやるけど、そうはいかないのが吉村って奴なわけで。 結局、授業中もモヤモヤとした気持ちが中々晴れる事無く色んな考え事をしてしまったせいで集中出来ないし、途中で寝て先生に怒られるし。⋯⋯⋯⋯もう全部吉村のせいだ。そうする事にした。 「で、いつまで怒ってんの。夕は」 「ずーーっと怒ってるよ!アキが俺の味方になってくんないから」 「味方って⋯別にそんな感じの会話でも無かったろ」 「そんな感じの会話でした〜!そうやっていっつも吉村に甘いからちょっかい出されるんでしょ」 「何も甘くねえだろ。普通に接してやってるだけ」 「⋯⋯その普通が嫌」 ようやく長い授業の時間も終わり、教科書を鞄に詰め込みながらバタバタと帰宅準備を終えて部活に走って行く嵐を見送った後、改めてスクールバッグを背中に背負って後ろにいるアキを振り返る。 俺の顔がまだ不服なのを指摘されてしまえば、改めてその原因を伝えるが納得がいかないと不思議そうな表情をするアキに、また俺のほっぺが膨らんでいく。 「そもそも、俺にどうしろって言いたい訳?」 「⋯⋯あんま吉村の相手しないで」 「俺からじゃなくてアイツから来るんだから仕方ねえだろ」 「そんなんだから吉村もアキの事チョロいと思ってずーっと調子に乗ってるんでしょ!」 全然収まらない俺の怒り。「アキはいつだって吉村に触られても何も言わない!」「俺が一生懸命守ってるのに!」と、今までの不満を一気にぶちまける。 そんな俺を見兼ねてかため息をついたアキが徐に立ち上がる。 鞄を手に取って俺の前まで移動したかと思えば、まだ椅子に座ってる俺の膝にそっと片手で触れながら目の前で身を屈めてゆっくりと顔を近づけて来る。 「な、なに急に⋯⋯⋯」 「お前さ」 アキから距離を近付けて来る事なんてそんなに無いため、一瞬、呼吸が止まってしまう。そんな事で怒りがおさまるほど俺は簡単な人間じゃないからね!と一応牽制するが、やがて今まで何ともなかったアキの表情に影が出来、瞳の光が消えていく。⋯⋯⋯怒って、る⋯? 「色んなやつにベタベタ好きに触られてる奴が偉そうに俺の事を甘いだなんて怒る資格があんのか?『俺だけがいつも触られてて気に食わない。』『俺だけがいつも何もしないから不公平だ。』って、⋯⋯俺だけが本当に悪いのか?適当な事喚くのもそろそろいい加減にしろよ」 「⋯⋯⋯⋯っ⋯!それ、は。⋯⋯」 「お前の方こそ、周りとの接し方を考えろ。それが出来ないなら俺の事を怒る権利は無いからな。」 今までの穏やかな態度が逆に引き金となっていたのか、なんなのか。息をつく間もなく正論で俺の今までの行動を指摘され、睨み付けられる様に冷えた眼差しを向けられてしまえば何も言葉が出て来なかった。時々アキから向けられる鋭い視線にはそう言う意図が含まれていたのだと改めて理解し自覚してしまえば、確かに⋯⋯⋯俺が、悪いのか。⋯⋯うん。そもそもこの状況で何も言い訳が出来るはずがない。 「ちゃんと理解出来てるんだろうな。返事がねえけど」 「⋯⋯⋯はい」 「⋯⋯で、謝罪は?」 「⋯⋯ゴメンナ、サイ」 「じゃあ帰るぞ。」 結局アキに促されるまま返事も、謝罪の言葉も素直に吐き出せばやっと満足したのらしく俺から離れて再び鞄を持ち直すアキの動作をぼんやりと眺める。 ⋯⋯なんかアキって⋯一番怒らせちゃ駄目なタイプ⋯だよなぁ。 数日前にこっぴどく叱られた事をふと思い出してしまえば、下半身がキュッと痛む感覚がして思わず歯を食いしばる。 「⋯⋯おい、早くしろ」 「っ⋯分かったよ」 全然動かない俺に痺れを切らしたらしいアキの急かす言葉でようやく我に帰れば、その隣に並んで教室を出る。 きっとこれもアキに惚れた弱みだろうなぁ⋯。⋯⋯⋯でも、仕方ないか。それでも俺はアキの事が好きなんだから
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