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※ 転校生8
⋯そう言えば時間の感覚を把握出来て無かった事に気が付く。
目が覚めてからと言うものの、吉村とのやり取りで時間の感覚そのものが頭から抜けてしまっていた。
改めてズボンのポケットの中を漁り、携帯を取り出してサイドボタンで画面を点灯させる。
もう放課後じゃねえか。⋯⋯嵐との約束すっぽかしちまったな。
昼頃に嵐と交わしてた約束を思い出し、息を吐き出す。また明日埋め合わせしてやんねえと。
結構な時間を保健室で過ごした割にはスッキリとしない眠気や疲労感にぼんやりと意識を飛ばしながら、一旦荷物を取りに戻る為教室に向けて歩みを進めていく。
──つもりだったが、慌ただしい足音が背後から聞こえてくると共に力強い衝撃が、俺の身体に伝わってくる。
「⋯⋯っ、!!!」
一瞬の判断で踏ん張りなんて効かず、その反動のまま目の前の地面に倒れ込んでしまうであろう衝撃に備えて咄嗟に目をぎゅっ、と閉じるが、背後からの力強い支えで俺の身体は位置を保ち続け、その場に踏み留まる事が出来た、のらしい。
「⋯⋯、っ、はぁ⋯⋯も、うっ⋯いい加減にしろ!!!」
今更振り返らなくとも、何が起きたのか、そもそも背後の人物が誰かなんて簡単に想像が出来ていた。
俺の腹部には腕が回され、そのままぎゅっ、と背後から包み込まれるように抱き締められる感覚。
普段なら抑えられる感情も今はどうにもならず、怒りのままに背後の人物に向かって叫んでしまえば、ビクッ!と身体が震える感覚まで背中越しに伝わってしまう。
「俺から離れろ」
とにかく今は、コイツから離れていたい。背後に居るであろう夕に言葉を投げるが、静かな空間が流れていくだけで今の状況が変わる事は無かった。
「⋯⋯っおい。聞いてんのか?離れろ、って言ってんだけど」
⋯⋯何なんだ、本当に。
俺の言葉に対して何の反応も無ければ、何も変わらない状況自体にやがて苛立ちが募ってしまう。
コイツの力には敵わない事は十分に理解している。だが、それでもどうにかこの場の状況を動かす為に夕の腕を剥がそうと掴んだ指先に力を入れたその瞬間、ボソッと何かを呟く声が背後から聞こえたような気がした。
「⋯あ⋯⋯き、⋯⋯⋯、⋯ん。」
「⋯⋯あ⋯?」
何だ⋯⋯?ボソボソと何かを呟いては居るのだが、はっきりと言葉が届いてこない。
一体何なんだと眉を顰めたその瞬間、背後からそっと離れた夕が俺の腕を掴み、俺の事を見向きもせずに歩き始めるその後ろ姿を引き摺られるような形で歩かされてしまう。
「な、っ?!⋯さ、っきから何、なんだお前は!!」
引き剥がそうにもビクともしない夕の腕に引かれるがまま人気の無い廊下を進み、そしてふと視線を向けた先に佇むトイレの存在に早くも気付いてしまう。
普段から人が寄り付かない所か色んな噂話が飛び交う事で有名なその場所があっと言う間に目の前まで迫っている事に気付いてしまい、そっと息を飲み込む。
⋯⋯所謂、見た、とか見てないとか。
又聞きでしか無いが、その幾つかを実際に俺も耳にした事がある。
今後絶対に立ち寄らないと決めたそのトイレの入口に差し掛かった所で、グッ、と最後の抵抗とばかりに足を踏ん張り夕の行動を止める。それとこれとは話が別だ。
いくらコイツと一緒だとしても、イヤなもんは嫌だろ⋯!!
「⋯っな、んでわざわざこんなとこまで来てんだよ⋯っ!!」
「⋯⋯、⋯⋯。」
必死で抵抗する俺の姿を見ても、何とも言わねえコイツの事が逆に不気味で仕方が無い。
いくら止めろ、離せ、と伝えても問答無用で俺の身体はトイレの中へと、そして奥の個室まで引き摺られてしまう。
バンッ!!と個室のドアが閉まる音と共に俺の身体も壁と向き合う様な形で押し付けられ、そのままの流れで無造作に下着の中に突っ込まれる夕の腕。
「っ、?!ゆ、う!止めろ馬鹿!!」
未だに反応の鈍いコイツの行動は予想が出来なかった。顔が見えなくなってしまった今、こいつがどんな表情をしてんのか、普段ならそれさえ分かれば大体の行動の予測は出来るのだが、今日に関してはそもそも話が全然通じてない。
意思疎通さえ出来ねえ中で、俺の声が聞こえてるのかどうかも怪しかった。
吉村の時と同様に頭突きでもしてやろうと気合いを入れた矢先、何の拍子もなく俺の後ろに突っ込まれていく夕の指先の感触に気付き、一気に俺の意識は下半身に持っていかれてしまった。
「ッ⋯夕⋯⋯ッ!!」
目の前には壁、背後には夕がべったりとしがみ付き押さえつけられている為、自由に身動きすら取れない状況の中で俺の中で蠢く夕の指先はあまりにも異質で、唇を噛み締める事でしか耐える術が無い。
⋯⋯が、すぐに中から引き抜かれてしまったその指先。
──嫌な予感が、する。
背後から聞こえてくる金属音。嫌でも聞き慣れたその音は、俺が抱いた予感そのものだった。
「待て、…⋯頼む、…から、夕。」
あくまでも夕を刺激させないように、ゆっくりと制止の言葉を告げたつもりではあった。
だが、制止の声も虚しく俺の背 下腹部に押し付けられたそれは無慈悲にも強引な形で俺の中を突き進み、その途端、全身を引き裂かれる様な痛覚が俺の全身を一気に巡っていく。
「ッ゛っ!!?!⋯ぁ゛が゛、ッ゛゛!!」
─激痛で頭がどうにかなりそうだった。
対して慣らされてもない俺のケツには無様にも夕のモノが強引に押し込まれ、そして何度も力強く身体を揺さ振られてしまう。
夕が動く度に息をするのもままならない程の激痛が走り、無理な挿入で俺の中は夕のものを拒むように内壁を縮めてしまうが、それでも強引に中を割り開く様に夕の腰が押し付けられる度に裂くような痛みがビリビリ、と伝わっていく。
「ぐ、ッ゛゛!!あ゛ッ、い゛⋯⋯ッッ゛⋯!!」
俺の口からは濁音混じりの悲鳴の様な、そんな音ばかりが溢れ出てしまう。まるで機械かの様に何の感情も持たず、強引に腰を押し付けられる動作だけが繰り返されていく。
やがて俺の太ももを何か生温いものが伝い、落ちていく感覚に気付く。チラリ、と視線を下腹部に向けてみれば、赤く染った液体がタラタラと太腿を伝い、ポタポタとトイレの床を汚してしまっていた。
……血、か。そりゃそうだよな。
が、そんな状況でも今の俺にはコイツを止める術は無かった。何を言っても無駄だろう。
コイツが満足してしまえば、いつかは終わる。
身体中に走る激痛に歯を食いしばりながら耐えつつ、最早抵抗する事を諦めて静かに時が過ぎ去るのを待っていれば、突然ピタリ、と夕の動きが止まってしまった。
そしてそのままズルり、と俺の中から引き抜かれていく夕のもの。
⋯⋯⋯⋯終わった、か。
俺の身体を抱き締めたまま急に身体の力を抜いた夕が、ドサッ、と便器の蓋の上に腰を下ろすと共に俺の身体もその腕の中に収まったまま、夕の膝の上に腰を下ろす形で落ち着いてしまう。
「⋯⋯ッ、⋯⋯ふ⋯⋯」
不意に背後から聞こえてくる息の漏れる様な声。
⋯⋯んで、お前が泣いてんだよ。俺の方が散々だろうが。
俺の背中に顔をグリグリと押し付けながら涙を流し始めた夕の小さな嗚咽だけが、シン、と静まり返ったトイレの中で響き渡っていく。
「⋯⋯夕。離してくれないか」
「⋯っ、⋯⋯」
「今更逃げねえから。⋯⋯お前の顔が見たい」
この体勢ではいつまで経っても埒が明かねえからとあくまでも普段の様に、宥めるような落ち着いた声色で声を掛けてみる。
ピクリ、と背後で動きを見せた夕の腕から、少しずつ力が抜けていく。痛みで麻痺した身体を叱責しつつ、夕と向き合う様にゆっくりと体勢を変えてしまえば俯いたまま顔を上げようとしない夕の鼻をグイッ、と掴み、俺の視線と合う様にその顔を持ち上げる。
「⋯⋯きったねえ顔だな」
ようやく対面した夕の顔は、涙や鼻水、そして俺に殴られた後の鼻血が入り交じったモノでぐちゃぐちゃになっていた。
⋯コイツ、俺の背中に顔擦り付けてたよな。
──もうこの際、後はどうだって良いか。
俺のブレザーの裾で夕の顔を一気に拭ってやれば、夕の腫れた目元が露になり涙で潤むその瞳は赤く充血していた。
⋯泣き過ぎだろうが。馬鹿。…あと、俺の服で擦り過ぎ。
「⋯で、何でこうなってんの?お前は」
「⋯⋯⋯。」
「⋯⋯おい、喋んねえと分かんねえだろ。いっつもうるせえ癖に、こんな時だけ黙ってねえでちゃんと話せ。」
俺と視線が合うことも無いまま、ただぼんやりと天井を見つめている夕の姿に思わずため息が溢れ出してしまう。
⋯⋯一体どう言う状況だよ、コレは。
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