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疑問 2
「⋯⋯ねえ嵐〜!そう言えば、あの新作の情報見た??め〜ちゃくちゃハイスペックな画質で新武器もたくさん出るらしいよ!」
「それはしっかりマーク済みですわ。ま〜じ〜で、欲しすぎる。来月だろ?発売日。もう真面目に勉強なんてしてられへんとちゃいますか?!」
「何その下手な関西弁。⋯⋯まあまあなんと言うか嘘も方便と言いますし、仮病なんて使っちゃっても良いかもしれませんなぁ!」
食事を終えて教室まで戻るその道中、どうしても不思議な空間を作り出していたあの視線の理由を探るべくいち早く嵐の隣まで駆け寄り顔を覗き込めば、まずは無難に別の話題から振ってみる。
その反応次第で俺に対する態度に違和感が有れば素直に問い掛けてみようかと様子を見てみるも、全然、何も変わらないし寧ろルンルンとよく分からないノリで話題に食い付き答えてくれている。
⋯⋯気にしすぎだったかもしれないな
そもそも安牌な話題で盛り上げてしまった為に今更聞いてみるのも難しい話で、ふ〜。と軽く息を吐き出せば俺の中でふわふわと漂う疑問視を無理矢理脳みその奥底まで押し込んで、無かった事にする。それに嵐の事だし、別になんて言うか⋯悪い事とかじゃ無さそうだしね。
そう言えばすっかり忘れていたが、俺が嵐と並んでしまった事でアキと吉村の2人きりにしてしまっている。2人の間で何も無く普通のやり取りが行われているか、しっかりと視線の端に捉えながら、吉村の行動を監視する。変にアキに触ったりちょっかいかけたりなんかしたらすぐにでも引き剥せるように、そこだけは集中してなきゃならない俺の役目がある。
その為に敢えて4人で居る時はイヤイヤ吉村と並んで、アキと嵐を一緒にさせている。その方が安全だからだ。
まあ、今回ばかりは⋯大丈夫そうだろう。アキに対してデレデレと鼻の下を伸ばしながら話しかけてる吉村の言葉を、アキは興味無さそうに窓の外を見ながら聞き流している。⋯⋯⋯あいつ、マジで可哀想な奴だよな。ほんとその図太い神経だけは認めてやる。
「あの、さ。そう言えば2人って何か特別な関係だったりすんの?」
「⋯⋯⋯へ?」
「あ〜⋯⋯明樹と夕だよ。特別仲が良いだけだと思ってたんだけど、それだけじゃ無さそうだなって聞いてみた。⋯⋯⋯⋯わりぃ。もしかして触れちゃいけない事だったりしたか?」
「⋯⋯あ!いや!そんなん、じゃないと思う⋯けど。あんま聞かれた事とか無かった、から」
俺とアキの関係、か。確かに傍から見れば距離感が他と違う事は自覚してるつもりだったけどなんと言うか⋯暗黙の了解⋯なのかな。よく分かんないけど、周りのみんながそもそも見慣れてしまってそれが普通だと認識されてるだけなのか、直接的に聞かれる事が今まで無くてちょっとびっくりしてしまった。隠してる訳ではないけど、アキ自身がどう思ってるのかは分からないし、みんなに知らせたいとかそういうタイプではそもそも無さそうだし。
ン〜!と否定も肯定もせず悩んでいた俺の姿を見て、
更にバツが悪そうな表情になってしまった嵐の様子に気が付く。
「いや!ほんとに!全然大丈夫だから。この学校ってさ、男子校だし俺らの年齢的にもそう言うお年頃と言いますか、思春期真っ盛りな訳なんですよねぇ。だから男同士のカップルも多くて、こういうのが普通というか⋯まあ、ほら、嵐だって結構ここ数日で身に覚えあるでしょ?」
「⋯⋯確かに。なんつーか、告白とか手紙とかやけに積極的な人が多いなぁって⋯⋯」
「ま〜嵐ってイイ男だしね。カッコイイし、すぐゲットしないと他の子に取られるのがみんな嫌なんじゃないの?」
「⋯まあまあまあ、それほどでも。⋯⋯だから2人の関係も今更気になっちゃったって感じなんだけど。⋯⋯それに積極的に来てくれた子の顔がみんな良い事。此処はお花畑ですか?って感じ」
「お花⋯?それはよく分かんないけど、⋯⋯そもそもアキだってその分類だもんね」
「う〜〜む。それはその通り」
嵐が転校してきた次の日には早速下級生の子から手紙を貰っていた姿を思い出す。その時はタジタジとどうしたら良いのか分からない、と困惑していた姿が面白くて笑ってたけど、その次の日も、またその次の日も毎日のように色んな生徒から好意を示されていた光景があったからこそ、説明もしやすく嵐自身もすぐに理解し、納得してくれた様だった。
顔も良く高身長でその上目立つ風貌ならすぐにその噂は流れるだろうと予想はしていた分、もう少し早めにここの雰囲気について教えてあげるべきだったかと思いもしたが、まあ⋯それはそれでタイミングってのも有りそうだし、自分で気付けてたのならそれはそれで良かったのかもしれない。
「でもさ、それを言えば夕だって綺麗な顔してんじゃん。正直モテるっしょ」
「俺がぁ⋯?⋯⋯それはよくわかんない」
「えぇ〜?夕ってそんな感じなの〜?アキと別に変わらないと思いますけどねえ」
「そんな感じってなに⋯⋯?やめてよ、アキの方が絶対綺麗だから」
「いんや、変わんないね」
アキと俺が同じだって⋯??今まで言われた事も感じたことも無い言葉で表現されてしまえば、それだけは聞き捨てならない。自分の容姿になんてそんなに興味も無ければアキの見た目は唯一無二だと俺はずっと思ってる。だからこそ、絶対そんな事は無いと眉を寄せるが、それでも負けじと対抗してくる嵐が更に気に食わない。ムッ、と口を結んで断固拒否!と顔で表現してみせれば、やがて「ハイハイ」
と俺よりも先に折れてくれた嵐の棒読みセリフが聞こえてくる。
「分かりました分かりました〜。俺の負けです。完敗。これで良いか?」
「⋯⋯⋯なんか大人ぶってない?」
「コラ。素直に引いてやったのにその言い方」
あまりのわざとらしさにそれを指摘してみれば、ムギュ、っと俺の頬を片手で挟む様に嵐の手で捕まえられてしまう。俺と嵐の視線がぶつかるように上を向かされてしまえば、「なんも言ってないじゃん」とバレバレな誤魔化しを告げてみるも、「やり直し」と、簡単に解放してはくれなさそうだった。
「何も無いわけないでしょ〜が。⋯⋯もっかい褒めてやろうか?ん??夕が納得するまで全然付き合ってやるけど」
「⋯⋯⋯っわかったよ、もぉ⋯」
「それでよし」
俺の言葉に満足したのか、漸く俺の顔を解放してくれた嵐の手がそのまま俺の頭をくしゃりと撫でる。
⋯⋯よく分からない時間だった。俺としては全然納得出来ないけど、今回ばかりは仕方ない。と素直に受け入れていた、が。⋯⋯⋯⋯そう言えば!!すっかり忘れてた。
嵐とのやり取りに夢中でアキと吉村の監視を怠ってしまっていた事に気づく。慌てて視線を2人に向けてみれば、バッチリとアキと視線が合う。何を考えているのか分からないが、なんか⋯⋯ちょっとだけ、その視線の中に棘を感じ取る。意図を読み取ることが出来ないまま、ふとアキの方から視線を外されてしまえばこれ以上の詮索はやめた方が良いだろうと何となく、そう感じる。
吉村との距離感に違和感も無いし、大丈夫だろうと判断すると改めて視線を戻す事にして。
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