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転校生 13

「アキ、身体の具合はどう?」 「痛えに決まってんだろクソが。黙って食えよ」 「⋯⋯ですよ、ねぇ〜。⋯⋯はい。」 ズルズルとうどんを啜りながら不意に気になったアキの身体の調子を尋ねてみると、どうやらすっごく機嫌が宜しくないのらしい。 ⋯ついさっきまで素直に甘えてくれてたくせにね。 なんて言ったらまたアキの拳が顔面に飛んで来そうな未来が見えて、大人しくうどんを啜ることに集中する。 ソファーの背もたれに身体を預けたまま、視線はテレビに向けながらも気だるげにうどんを啜るアキの様子から、確かに本調子では無さそうな様子が伝わる。 ⋯⋯ゴメン、あき。 心の中で改めて小さく謝りながらアキの様子をぼんやりと観察していると、急にその動作がぴたりと止まり続け様にばっちりと俺とアキの視線が絡み合った。 「そう言えばお前に聞きてえ事が有るから、食い終わってもそこに居ろよ」 「⋯⋯はい。」 ギリっ、と鋭い視線を浴びながら、脅しの言葉が並べられていく。 淡々と告げられたその言葉が何を意味してるのか、⋯⋯何となく察しはついている。 ぜっったいAVの事だ。 そりゃ怒られるよなぁ。 ずん、と一瞬で淀んだ空気感が俺とアキの間に広がる一方で、それでも普通にうどんは美味しくて手が止まらない。 満たされていく空腹に満足感を感じながら、やがて完食し終えたアキの分のお皿を俺の分と重ねてキッチンまで運んでしまえばさっと洗い物まで済ませて、改めてアキの元に戻る。 ソファーの肘掛を背もたれにしながら、腕を組んだ状態で手持ち無沙汰に携帯画面と睨めっこをしているアキに向けてそっと声を掛け、反応を伺う。 「⋯⋯お待たせ」 「そこに座れ」 ゆっくりと顔を上げたアキと再び視線が絡み合う。携帯を傍にポイっと追いやり、ダルそうに座っていたアキが姿勢を直すと共に指摘されたその隣へと腰を下ろす。 ドキドキ、とアキの挙動一つ一つに対して破裂しそうな程に鳴り響く心臓を落ち着けるべく控えめに深呼吸を繰り返す。 そして、ゆっくりと俺に向けられたアキの瞳。 キラキラと澄んだその瞳は普段なら綺麗だと見入ってしまう所だけど、今回に関しては明らかな圧がその中に含まれている分、じっと見る事を躊躇ってしまう⋯というか。 でも、一度目が合ってしまった以上、『絶対に逸らすな』とその圧が訴え掛けている。 「⋯⋯AVの話、もう少し詳しく聞かせてみろよ。楽しかったんだろ?」 「⋯⋯っ、⋯」 やっぱり、そうだよね。 あの時はなんと言うか⋯頭の中がぐちゃぐちゃになりすぎてて、答えを考えてる余裕なんて一切無かった。 そんな俺の心境に気付いてくれていたのだろう、すぐにその話を引っ込めてくれたのはただのアキの優しさなんだろうけど。 でも、落ち着きを取り戻した今、改めて聞かれたとしても上手く答える事が出来ない俺が居た。 どれもこれも言い訳みたいになってしまいそうで。 ちゃんと素直に伝えなきゃ、アキの優しさを蔑ろにしちゃうみたいでヤダし。 考えれば考える程アキに対しての気まずさと、申し訳なさと、裏切ってしまったようなそんな複雑な気持ちが俺の中でぐるぐると渦巻き始める。 「そうやって隠れながら見てっから気まずくなるんだろ?見るなら堂々と見りゃ良いだろうが」 「そんなの⋯違う、じゃん」 「どうせ俺に怒られんのが嫌なだけだろ。黙って見てる方が楽だからって、一人で見てたんじゃねえの?」 「⋯ちが、う。」 「じゃあ何なの?」 ⋯⋯違う。そういう事でもない。 口をぎゅっ、と結んで俯いてしまう。 アキに怒られる⋯のは、仕方の無い事だと分かっている。アキの事を裏切っちゃうみたいだからもう見ない!って決めたはずなのに、また見てしまっている俺の意気地無さが露見してしまう事の方が、嫌だった。 その事でアキに余計な感情を抱かせてしまう事を避けたかった、筈なのに。 分かっているのに、すぐに誘惑に乗ってしまう。 今だって、言葉に詰まった俺の事を目の前にしてしまった事でアキの瞳の中には俺に対する怒りの色がいつの間にか消えてしまい、代わりに諦めにも似たようなそんな寂しそうな色が浮かんでいる。 「⋯⋯夕。」 俺の名前を呼ぶアキの声。いつもより少しだけ、落ち着いたトーンのその言葉。 きっと、その後に続くセリフはいつだって── 「⋯⋯分かった。もう何も言わねえから「っ、だめ!!!」」 予想していた言葉がアキの口から全てが飛び出してしまう前に、咄嗟に目の前の体にぎゅっ、と抱きついてしまう。 違う!! 何で、わがままな俺の為にアキばっかが我慢しなくちゃいけないの?! いっつも自分の素直な感情を押し殺して、俺の事ばっか優先してしまう。今だって、俺のことを嫌いになる、だなんて宣言しておきながら、そうやってすぐ許してくれる。 すぐ諦めないでよ。 ──だから調子に乗っちゃうんだ。俺が。 ダメダメ、そんなの絶対だめ! 「何で、何も言ってくれないの?!アキが怒ってくれなきゃ、俺、なんにも学べないじゃん!!」 「⋯⋯っ、はぁ?⋯何、お前は俺に怒られたい訳?」 「アキが我慢してるのが嫌なの!!もっとワガママになってよ!!じゃないと俺ばっかになっちゃう!!」 「⋯なん、なの⋯お前は。訳分かんねえわ」 本当は、アキにもっと甘えられたい。俺がワガママをしても許してくれるアキの事も好きだけど、すぐにあきらめて全部を我慢しちゃうアキの事はあんまり好きじゃない。 今回だってほんとはちょっぴり期待してた。 俺に嫉妬してくれて、それで、怒ってくれるのかな、とか。 でも、アキってば大人みたいな対応ばっかしちゃって、俺だけが子どもみたいじゃん。 本当にわけが分からない、と困惑してるアキの顔をじっと見つめながら、ムッとした表情を浮かべてみせる。 「俺と一緒に居れなくて寂しかったんじゃないの?何でそれをすぐに我慢しちゃうの?AVなんて見てちゃヤダー!!って言ってよ」 「んな事言う訳ねえだろ⋯」 「言って!!それで、ちゃんと俺のことが好きだって教えてよ!!」 「⋯⋯っはぁ⋯」 「なんでため息なの?!」 全く、アキのバカ!何で俺はこんなに怒ってて、アキが困ってる状況になってるの?!訳わかんない! いっつもそう、アキが怒ってても、俺が逆ギレしちゃう事の方が多い。そうする事で、アキが諦めてくれるから。 今だってすぐに俺の感情に流されて、そして、困ってる。 でも、そんなアキの表情も好き。 情緒不安定な感情が渦巻く中でも、アキの事を好きな事に変わりはない。 思わずぎゅっ!とアキの体を抱き寄せて、しれ〜っとそのまま色んなとこを触って居たら触りどころが悪かったみたいで、バチン!!と俺の頬が叩かれる。普通に、平手で。 ⋯⋯やっぱ怒んない方が良いかもしれないな。手が出ちゃうから、アキの場合は。

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