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26.乾杯(3)*

 ぐりぐりと円をかくように指の腹で弄られ、リョウヤがみっともなくシーツの上をくねり始める。 「いっ、いた、ァ……ッ」 「あんまり動くとズレちゃって危ないよ。アレクシス、ちゃんと押さえててくれよ」 「……ああ」  何故か、吐き出す声すらも重い。マティアスは手を止めることなく、先端部分を弄っていた指の動きをどんどんと激しくし、輪にした指で、先を包みこんでいる皮を引きずり下ろすように根元まで扱く。  柔らかな肉全体を刺激し続けていると、ついにくぷんと頭の部分がのぞいた。 「く……ぁ……ぁ……ん」 「ふふ。坊やも見える? ちゃぁんと可愛いのが見えてきた。お尻の穴もくぽくぽ開いてて良さそうだ。あとちょっとだから頑張ろうね」  マティアスが尖った爪先を、まだ剥け切っていない皮の隙間にねじ込んだ。 「……、ひぁっ……!?」  これまでで一番仰け反った肢体を、強く押さえ付ける。隙間に入れられた爪が、剥がしづらい箇所をずりずりと下げていく。リョウヤの肌からは冷や汗が噴き出していて、手袋の表面が湿った。 「ゃ……ぁ、あッ……──、ッ」  ついに膨らんだ肉の全てが顔を出した。無理矢理剥がされたことで傷がつき、数滴の血が竿を伝って薄い茂みに垂れ落ちる。 「あ……あ……ァ、……」 「ほぅら、頑張ったから綺麗に剥けたよ。えらいね、坊や。いい子だ、いい子……」  マティアスが、断続的な痙攣を繰り返し放心しているリョウヤの脇を撫で、労わるようにその胸の尖りをちゅ、ちゅ、と啄んだ。「んん……」と甘ったるく腰をくねらせたリョウヤに、また、あの奇妙な苛立ちが発生する。  なんだろうか、この、リョウヤが淫らに喘ぐ声たびに湧き上がってくる感情は。どうでもいい稀人がどうでもいい声を上げているだけなのに、なぜこれほどまでに癪に障るのか。  眉根すらも、きつく寄るのだ。  リョウヤの汚らしい男性器など、視界にいれる価値すらない。だのに、視線がリョウヤの男芯──いや、リョウヤのそこを弄るマティアスの手に固定される。  全てが煩わしかった。  苦しむリョウヤが。喘ぐリョウヤが。アレクシスではなく、マティアスの手によって快感に打ち震える、リョウヤが。 「もう少し可愛がってあげてもいいかな? 痛くて萎えちゃったみたいだから」 「……ああ」  頷く動作も、緩慢だ。マティアスが流れるようにウィスキーの瓶を手に取り、きゅぽっとコルクを抜いた。そして見せつけるように瓶を傾ける。 「あ、おまえにまでかかっちゃったら大変だ。ちょっと上を向かせてあげられるかな?」  そう言われれば手を貸すまでだった。別に断る理由はない……はずだ。もやは意地のような気持ちで、強引に折り曲げた膝をリョウヤの細い腰の下に押し込み、上半身を傾ける。  さらに下から腕を回し、両脚の裏から掬いあげて羽のように左右に開脚させた。 「……ぁ、……?」  呆けていたリョウヤが、怪しい動きをしているマティアスに気づくも、時すでに遅し。 「……ひ」 「ねえ坊や、知ってる? アルコホルでするオナニーはね、口から飲むよりも吸収速度が早いから酔いが回りやすいんだ。それに普通にするよりもすっごく気持ちがいいから、一度はまったら抜け出せなくなるかもねぇ」 「やっ……や、だ、それ、は……や」 「大丈夫。ウィスキーは度数が高いからね、あっという間にわけがわからなくなるよ」 「し……死ぬ……」  狼狽するリョウヤに、にいっと、マティアスが三日月型の笑みを浮かべた。  ひゅっと、リョウヤが息を呑む気配。 「大丈夫だよ、人間なら耐えられないかもしれないけど、坊やは稀人だからね。まあちょっと壊れちゃうかもしれないけど──はい、かんぱーい」  一気にどぼっと垂らされる液体に、リョウヤの体が電流が走ったかのようにびりりっと震え、伸びきる。 「っ……ぁ、あ……──ッああっ……ああ──ッッ!」    それはまさしく、断末魔の悲鳴だった。

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