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29.無自覚(1)*

「はあ……何回出してもたまらないねぇ。気持ちよかったよ、ありがとうね坊や」  散々出してスッキリしたのか、それとも興味を失ったのか、マティアスはリョウヤから肉の杭をぶちゅんと引き抜くとさっさと背を向けて、アレクシスに向かってニコリと微笑んできた。  自慢の艶やかな髪を梳きながら、どう? と得意げに指差されたリョウヤの股の間は、散々な有様だ。浜辺に打ち捨てられた水死体のようなそれは、まさに虫の息と言っても過言ではなかった。  腹や胸に飛び散っている体液の量も尋常ではないし、アルコホルの香りが独特な青臭さと混じってぷんと臭う。  口の端から零れている白濁は、飲みきれなかったものだろうか。う……と引き攣けを起こしては吐き戻すような仕草を見せているあたり、胃の中にも散々吐き出されたらしい。  酷使され続けた穴はどちらも腫れあがっていて、上の穴からは血交じりの体液が、そして下の孔は引き抜かれたことで杭を失い、濁った白濁がごぽりと流れていた。  シーツはもう茶色く染み付いてぐちゃぐちゃで、だいぶ手酷くやられたことは明らかだった。  だがしかし、そんなことよりも。 「……どう、じゃない。喘ぎ声がうるさい。随分と汚してくれたな」 「徹底的にやれっていったのはおまえじゃないか。壊してもよかったんだろう?」  確かにそうは言ったが。  しかもよく見れば、リョウヤの両手の枷はベッドヘッドから外されているではないか。 「胎は、壊れていないな?」 「もちろんだとも。まあ、心はちょっと壊れちゃったかもしれないけどねぇ」  自分の声が耳朶に反響して、煩い。マティアスではなく、赤い唇から溢れる白から目が離せない。リョウヤは、両腕を自由にしてもらっていたというのに、ろくな抵抗もせずマティアスに貫かれ続けたのか。  アレクシスは、ベラを抱いている間もリョウヤのことがちらついて、あまり集中できなかったというのに、こいつはそんなこともなく、あんあん馬鹿みたいに喘ぎながらマティアスを受け入れていたというわけか──そうか。  指に自然と力が入り、きし、と手にしたグラスが軋む。 「……随分と、これが気に入ったようだな」 「ホントだよ! まさかこんなにイイだなんて知らなかったね。いやぁ、22年間損して生きてきたなぁ。おまえの言う通り、これじゃあ娼館通いも厳しくなるわけだ、納得したよ」  よっぽどいい思いをしたのか、ペラペラペラペラと、マティアスの口は止まらない。 「だいぶイカせてあげたし仕込んじゃったよ。ドライオーガズムもオーラルセックスも、おねだりの仕方も、ね。ちなみに舌の使い方も喉で絞るやり方もしっかり覚えさせたから、上手にしゃぶれると思うよ。下しか使わないのはもったいないからね。おまえも時々試してみるといい」 「口で、ね。噛まれなかったのか、おまえ」 「ああ、まあね──……」  さっさと服を着始めたマティアスと目が合った瞬間、怪訝そうな顔をされた。   「……アレクシス?」 「なんだ」 「君、その顔」  顔? 意味がわからなくて頬に手を当ててみるが、何もおかしなところはない。 「なにかあるか」 「いや」  マティアスがしばらく思案するように目を細め、直ぐに何かを思いついたのか、笑みを深めた。 「……坊やさ、最初から最後までだいぶ従順だったんだよねぇ」 「そうか」 「あれ、もしかして信じてないのかな? じゃあトクベツに見せてあげよう」  マティアスが再びベッドの上に乗り上げ、リョウヤの顔を跨ぎ髪をひっつかんだ。まだしまい込んでいなかった垂れた陰茎を、微動だにしないリョウヤの唇にぐにっと押し付ける。   「はーい坊や、教えた通りにキレイにしてくれるかな……?」    

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