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第1話 あなたの舎弟にしてください!(2)
「あのあのっ、入学してからずっと先輩のこと探してたんです。お礼も言えずじまいだったし……だから、こうしてまた会うことができて嬉しいんです」
彼の目はどこまでも純粋だった。正直、こういったタイプには慣れていなくて調子が狂ってしまう。
不破は昔から不良と間違われがちで、なにかと敬遠されてきたほうだ。交友範囲も狭ければ、部活動にも入ったことがないしで年下との接し方がわからない。
「そーかよ」
「はいっ! 先輩、先日はどうもありがとうございました! そして、俺をあなたの舎弟にしてください!」
「結局、そこに繋がってくんのか……」
「この日のために髪も染めたし、学ランもばっちり着崩したんですよ! 先輩の隣にいてもおかしくないようにって」
言って、彼は得意げな顔をする。
短く切りそろえられた茶髪に、制服である学ランの下にはパーカー。一見すると素行が良くないように見えるものの、童顔のせいでいまいち締まらない。
一方、不破は黒髪だし、制服も彼ほど着崩していないのだが、見た目で言ったら自分の方がよほど――と少しだけ考えて、やめた。
「そもそも俺は、不良じゃねェって」
「えっ?」
「だから、舎弟は無理」
不破はため息をついて、頭を軽く小突いた。これで話は終わりだとばかりに踵を返そうとしたのだが、相手はそれを良しとしない。
「待ってくださいいい~っ!」
泣きつくようにして腕にしがみつかれる。見かけによらず強い力だった。
「おまっ……しがみつくんじゃねェ!」
「だって俺、どーしても不破先輩に恩返ししたいんです! お役に立ちたいんです!」
まるで捨てられた子犬のようだ。こんなふうに訴えかけられては、無下にするのも良心が痛む――不破は小さく舌打ちをした。
「わーったよ! 気が済むまで好きにすりゃいーだろ!」
半ばヤケになって言う。すると、相手の表情がぱっと明るくなった。
「やったあ! これからよろしくお願いします、兄貴!」
「……『兄貴』はやめろ」
「じゃあ『先輩』でっ」
彼は嬉しそうに笑うと、不破の手を再び握ってぶんぶんと振り回す。それから、名を名乗ったのだった――犬塚拓哉 、と。
面倒なことになってしまい、不破はもう一度、大きなため息をついた。
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