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第2話 俺ら、付き合ってみっか?(5)

「………………」  目の前で犬塚の瞳が大きく見開かれる。信じられない、と言わんばかりに固まっていたのだが、やがてその唇がゆっくりと動いた。 「先輩……ほんとうの、ほんとうに?」 「こんなことで嘘つくかよ」 「あ、う……」 「嬉しい」「夢みたい」と、犬塚は小さく呟いた。それから、俯き加減に視線を逸らしたかと思えば、またもや布団に潜り込もうとする。 「あーっ! なんでまた隠れようとする!」 「だって、俺、ほんとに初めてだからっ! 頭の中わーってなっちゃってるんです!」 「人のチンコ咥えといて、今さら何言ってんだよ!」 「あれは好奇心の方が強かったからあ!」  攻防の末、犬塚は布団の中にすっぽりと収まってしまった。  不破は苦笑する。仕方なしに布団ごと犬塚を抱きしめながら、優しく語りかけた。 「なあ、いろいろ順序逆になっちまったけどよ――俺ら、付き合ってみっか?」  腕の中で犬塚がぴくりと反応する。彼はしばらくして、布団にくるまったまま顔だけ出してきた。 「よ、よろしくおねがいしまひゅ……あっ」  清々しいまでに噛んでいる犬塚に、不破は思わず吹き出しそうになる。なんとか寸前で堪えたものの、本人にはしっかり伝わったらしく、ムッとした表情が返ってきた。 「先輩、笑ってる!」 「笑ってねェって!」  膨れっ面になる犬塚をなだめようとするも、そっぽを向かれてしまう。可愛いと思っただけに過ぎないのだが、それを口にすればますます機嫌を損ねることは目に見えていた。 「犬塚、こっち向いて」  耳元で囁いて、犬塚の額にキスを落とす。視線がこちらに向いたところで、瞼や頬にも触れていき、最後に唇へ自分のそれを重ねた。 「ずるい。うやむやにしようとしてる」 「なに? 嫌なのかよ」 「……ううん」  犬塚は不破の肩口に額を当ててくる。甘えるようにすりすりと肌を寄せてくるさまは、まるで子犬のようだ。 (恥ずかしがったり、怒ったり、甘えたり……ほんっと忙しいヤツ)  そんな無邪気な彼に恋をしてしまった。凝り固まった心がほぐされていくような感覚、と言ったらいいだろうか。今まで感じたことのないあたたかな感情が、己の中で何かを変えてくれるような気がした。

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