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第3話 いちゃいちゃ、したくなっちゃって(2)
「………………」
さらりと衝撃の事実が明かされた気がする。
なんでも父親は仕事人間で家にほとんど帰ってこないため、家事の類は必然的に自分が担うようになったのだと言う。さらには、歳の離れた弟と妹がいて、彼らの面倒を見るのも自分なのだと。
それを聞いた不破は、どこか胸が締めつけられるような気持ちになる。まさかそんな家庭環境にあったとは――付き合い始めて二週間が経つが、まだまだ知らないことだらけだ。
「そうだ、これも言っておかなきゃなんですけど」
ぼんやりとしていたら、犬塚が思い出したように切り出した。
「先輩と……でぇと、とかもしたいんですが、なかなか都合がつかなくって。お父さんが休みの日じゃないと……」
ごめんなさい、と犬塚は申し訳なさそうにしゅんと肩を落とす。別に気にすることなど、何一つないというのに。
「ゆっくりでいーよ。つか、その歳で家のことやってるなんて偉いな」
不破が頭を撫でると、犬塚はホッとした顔になった。そして、そのまま甘えるようにすり寄ってくる。
「ありがとうございます――先輩、やさしい」
「べ、つに。思ったこと言っただけだし」
「へへ……先輩のそういったところ好きだなあって思います」
不意打ちの告白に、不破の心臓が大きく跳ねた。
犬塚はおそらく天然なのだろう――それもかなりのレベルの。本人に自覚がないぶん、余計にタチが悪い。
(あークソッ! 可愛いかよ!)
こうして好意を示されるたび、胸の奥がむずむずと痒くなる。他人の言動にいちいち振り回されるなんて自分らしくないけれども、こればかりは仕方ない。
不破にとって、犬塚は間違いなく特別な存在だ。理屈ではなく、直感的にそう思う。彼の前では平静を装うこともままならないし、どうにも格好悪い姿を見せてしまうのだ。
「なあ、犬塚。キスしてェんだけど」
互いに昼食を終えたところで、ふと湧き上がった衝動を告げる。すると、犬塚の顔がじわじわと赤くなった。
「は、はい……っ」
こくりと頷くと、犬塚はぎゅうっと音が聞こえそうな勢いで目を閉じる。
不破は思わず苦笑しつつ、そろりと身を乗り出して距離を詰めた。それから犬塚の頬に触れて、ゆっくりと顔を近づけていく。互いの唇が触れ合うまであと数センチ、といったところで、
「やっぱり待って! アメ舐めてからでいいですか!?」
「……あ?」
「お弁当食べたばっかだし、味とか匂いとかっ」
犬塚が突然何か言い出したかと思えば、慌ただしくズボンのポケットの中を探り出す。
「おい、そんなの気にしないって」
そう言うも、犬塚は聞く耳を持ってはくれない。取り出したキャンディの包みを開いて、ぱくっと口の中に放ってしまうのだった。
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