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第3話 いちゃいちゃ、したくなっちゃって(5)

「コワモテの兄ちゃん、ゲームしよっ!」  にっこりと微笑んで、勢いよく不破の膝上に乗ってくる。ふと兄弟の血を感じたが、パワフルさでは弟の方が上のようだ。 「お前、宿題どうしたんだよ。兄貴にまた言われんぞ」 「もう終わったって! あんなん楽勝!」  得意げに言いながら、蓮はこちらを見上げてくる。その顔がふっと不思議そうな顔つきになった。 「そーいや、コワモテの兄ちゃんってさ」 「不破、な」 「不破さんってさ、兄ちゃんの友達?」 「……まあ、そんなとこかな」  さすがに“彼氏”とは言えなくて言葉を濁す。蓮は何故か、興味津々といった様子で目を輝かせ始めた。 「えーっ、兄ちゃんって友達いたんだ!?」 「はあ?」  思ってもみなかった反応だ。不破は思わず眉根を寄せてしまった。  しかし、蓮は特に気にしたふうもなく続ける。 「だって、兄ちゃんって誰かと遊んだりしねーし。いっつも家のことばっかでさ」 「え……マジか、それ?」 「そだよー。なんか兄ちゃんってしっかりしてるから、一人でもいいのかと思ってた」  不破は衝撃を受けた。あの犬塚が、弟の目にはそのように映っていただなんて。  今の今まで、彼がどのように日々を過ごしているか知る由もなかったけれど、一連の行動を見ていれば、なんとなく想像がつく。“しっかり者”というのにも頷ける話だ。  ただ、不破にとって犬塚は、どうにも“甘えん坊”という印象が強い。いつだって、彼は子犬か何かのように甘えてきて――と、そこでハッとした。 (もしかして、犬塚が甘えられる相手って……)  犬塚がやたらと甘えてくるのは、今まで甘えてきた経験があまりないからかもしれない。本人はさらりと口にしていたが、両親が離婚していることもあるし、弟妹を世話する立場として人に頼ることもできなかったのではないか。  そう考えたら、犬塚がひどく愛しく思えてならなかった。  夜になって、犬塚は夕食にカレーライスを振る舞ってくれた。家庭的な温かみのある料理は心まで満たしてくれるようで、不破は舌鼓を打ちながら食事を楽しんだ。  その後、テレビを見たり、ゲームをしたり……と、穏やかな時間はあっという間に過ぎ、現在時刻は午後八時近く。  弟妹は先に風呂に入って、今は二階の自室へと引き上げている。一階には不破と犬塚の二人きりで、一気に静かになった。  犬塚はというと、台所で食器洗いをしている――不破も手伝いを申し出たものの、やんわりと断られてしまったのだ。  何となしにぼんやりとその後ろ姿を見ていたら、やがて洗い物が終わったのか、犬塚がエプロンも外さずにこちらに寄ってきた。 「へへ~っ、先輩が家にいるだなんて不思議な気分!」  すっかりいつもの《甘えん坊な後輩》の顔だ。満面の笑みではしゃぐ姿に、不破の口元も自然と緩んだ。 「俺も、まさか家に呼ばれるとは思わなかった」 「だって先輩、今日のお昼褒めてくれたでしょ? ほら、卵焼き。あれが嬉しくって、もっと何か食べてもらいたいなあって思っちゃったんですっ」 「……でも、それだけじゃねェだろ?」  言うと、犬塚は少し照れくさそうな顔になって頬を掻く。どうやら図星らしい。

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