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第3話 いちゃいちゃ、したくなっちゃって(4)
放課後。不破は犬塚に連れられて、彼の自宅へと訪れていた。
デートは厳しくても、自宅で夕食を一緒にする程度ならば、ということらしい。
犬塚宅はやや古い一戸建ての木造住宅で、不破の住む学生寮(学生会館)から徒歩十分と、意外と身近にあった。犬塚が「ただいま!」と玄関戸を開ければ、バタバタと元気のいい足音が聞こえてくる。
「兄ちゃん、おかえり!」
「おかえりなさぁい」
出迎えてきたのは幼い弟妹だった。
弟は小学校中学年、妹は低学年といったところだろうか。これは確かに歳が離れた兄弟のようだ。面倒を見なければいけない、というのもわかる。
「こっ、コワイのがいる!」
「あ?」
犬塚の背後から現れた不破を見て、弟の方がそんなことを言ってきた。続いて、妹も怖々とこちらを見つめてきて、不破の顔が思わず引きつる。
「こらっ、お客さんに失礼でしょ? この人は不破さん――俺の大切な先輩なんだから。二人とも挨拶は?」
犬塚が叱りつけると、二人とも慌てて頭を下げた。こういった光景は日常茶飯事なのだろう。彼らの態度には、慣れっこだという雰囲気があった。
「ども、お邪魔します……」
不破もそれにならって挨拶する。弟妹の二人は警戒心が薄れたのか、ぱあっと顔を輝かせた。
「いらっしゃい!」
「こっち来てあそぼっ!」
何だかよくわからないが、どうやら懐かれたらしい。両腕に引っ付かれてグイグイと引っ張られてしまう。
「わ、先輩ってばモテモテっ」犬塚が言った。
「なんだコイツら、ワケわからん!」
「弟の方が蓮 で、妹の方が由衣 っていいます」
――そういったことではないのだが。
正直、今の状況に困っている。不破に下の兄弟はいないし、子供の相手なんてしたことがない。
助け舟を求めるように犬塚を見れば、彼は苦笑しながら弟妹に声をかけた。
「その前に、二人とも宿題は? 遊ぶのは宿題終わってからだよーっ」
兄の言葉に「えーっ!」と不満そうな声が上がる。が、結局は素直に言うことをきいて、渋々と不破の腕を離したのだった。
「先輩はこっち。俺、洗濯とか済ませちゃうんで、自由にくつろいでてください!」
そう犬塚に言われて通されたのは、なんとも生活感のある居間だった。
全体的にこぢんまりとした和室で、部屋の隅に追いやられているゲーム機や、ローテーブルの上に広げられたままの漫画本などが目に入る。それらをパッと片付けると、続けて犬塚は台所へと向かった。
「待ってる間、何か飲みませんか? 麦茶かジュースか、お湯沸かせばあったかいのも出せますけどっ」
「ああ、わりィな。なら麦茶もらえっか?」
「はーい!」
犬塚は元気よく返事をして、麦茶がなみなみ注がれたグラスを手に戻ってくる。そしてこちらへ差し出すなり、すぐさま居間から出て行った。先ほどから随分と忙しない。
(アイツも大変だな。家事に、弟たちの面倒に……って)
手持ち無沙汰になった不破は、とりあえず畳に腰を下ろし、改めて室内を見回してみる。家族写真が飾られていたり、弟妹が描いたであろう絵が貼られていたりと、なんだかノスタルジックな気分だ。
と、感慨にふけっていたら、居間の戸が音を立てて開いた。入ってきたのは弟の方――蓮だった。
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