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kiss05
「あ、いた」
瑞希が手を上げる。
白いコートを着た長身の男が人の流れを遮って近づく。
かけていたサングラスを外し、にこりと微笑んだ。
その無防備な笑みにオレは口を開けたまま固まってしまった。
「出張帰りに時間が合って良かったね」
「会えないかと思ってましたよ……お疲れ様です」
「ありがとう」
一歩下がったオレに、トイレから戻って来たアカがぶつかる。
「なにしてんの」
「いや、邪魔しちゃ悪いから」
アカも前を向き、二人を見つける。
会話は聞こえないが、壁にもたれた瑞希の頬に類沢が手をかけ、耳元で何かを囁いた。
途端に真っ赤になる瑞希。
提げていた袋を隠しながら、首をブンブン振っている。
「あ……あいつらに何があったんだ」
明らかに二人の世界に入っている。
「おれが訊きたいよ、圭吾」
アカは溜め息を吐き、改札に向かった。
早足で追いかける。
「なんで怒ってんの」
「怒ってない」
ホームへの階段を駆け抜けるように降りる。
人並みは疎らだ。
男性が多く、みな紙袋をぶら提げている。
アカは自分のを見下ろして、下唇を噛んだ。
「みぃずき、とられちゃったなぁ」
「あ?」
「独り言」
電車が滑り込んでくる。
「圭吾も彼女と過ごすんだよね」
「あ、あぁ。一応な」
周りの人が開いた扉に入ってゆく。
二人の電車はこの次だった。
「……おれも彼女つくるかな」
「マジで言ってる?」
「うるさい」
その横顔は、微かに寂しげだった。
だから、オレはアカの肩に手を回した。
驚いた顔で振り向く。
「親友。親友」
「はっ。意味わかんないし」
すぐに手を払われた。
それでもアカは嬉しそうだった。
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