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lip07

 鼻血を流す男の腹に蹴りを入れる。  何回も。  据わった目で。  首筋を掴み、膝を蹴ると跪いた男の背中を踏み潰した。 「……お前みたいな屑に渡すかよ」  タイルに血が飛び散っている。  僕はカタカタ震えて、個室の壁にもたれていた。  気絶した男の背広を探り、財布から身分証を取り出す。  慣れた手つきでそれを確認すると、僕の方に歩いてくる。 「危なかったな。これに載ってる会社に通報すれば二度とこいつが現れることはないよ」 「ち……近寄るな」  翔が目を見開いて立ち止まる。  僕は首を振りながら今の現実を否定していた。 「楓」 「アンタだって同じなんだろ……この痴漢みたいに僕を犯したいだけで、それが目的なんだろう!」  鞄を抱き締めて個室から出る。  肩を掴んだ手を睨む。 「触るなっ!」  僕の剣幕に翔の手が強張る。 「もう……僕に近づくな」  誰もいないホームを早足で歩く。  喉が渇く。  頭が痛い。  早く、早く。  どこに向かっているかも、わからない。  ただ、逃げたくて。  知らない駅を出て、ひたすら歩く。  気づくと、ホテル街に来ていた。  引き返そうとしたら、酔った男に絡まれる。  怖くなって、男を突き飛ばす。  倒れた男が、少し醒めた顔で立ち上がった。 「調子にのってんじゃねーよ」  乱暴に腕を捻られ、暗い路地に引きずり込まれる。  酒の臭いに鳥肌が立つ。  なんで、今日に限って。  自分の顔と体を恨む。  近寄って来るのは異常者ばかり。  涙を男が舐めとった。 「女みてぇだな」  吐き気がした。  こいつも。  脚の間に膝を入れられ、逃げられない。  顎に手をかけられ、上を向かされるとすぐに唇を重ねられた。  気持ち悪い。  気持ち悪い。  ヌメヌメした舌を押し出そうとして逆に引き出され蹂躙される。  涙がボロボロ流れ、目を瞑った。  今日は厄日だ。  それだけのこと。  寒気が駆け上がる。  男の手がファスナーを下ろした。  しつこく撫でられ、嫌なのに反応してしまう。 「ふッ……んく」 「声まで可愛いんだな」  鎖骨に吸い付く感覚に、ゾワゾワと快感が這い上がってくる。  違う。  僕は男だ。  こんなの気持ち悪い。  力を振り絞って、男の急所を蹴り上げると、僅かなスキから抜け出した。  振り返らずに走る。

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