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ignorant03
悲鳴と共に目を覚ます。
「雛っ」
「と……朋」
隣の布団から移って来てくれた朋にしがみつく。
汗で着物が濡れている。
雛は朱。
ぼくは蒼。
「大丈夫だよ。夢なんて怖くない」
見上げると、雛は目を瞑って優しくぼくを撫でていた。
双子の兄。
幼い頃から毎日一緒。
今だって。
ズズ、と着物の裾を引きずり、朋に寄り添う。
「あの日さ……本当に怖いことなんてなかったんだよな」
「言ったよね、雛。ボクらは秋倉おじさんに助けて貰ったんだって。ほら今はこんなに綺麗な服だし、部屋もこんなに広い」
朋と違い、ぼくはオドオドと部屋を見渡す。
だって、夢が言うんだ。
あのとき手を伸ばしたおじさんは悪い人だって。
こんな着物、着たくない。
重いし、動きづらい。
なにより、これ女の子が着るやつ。
「そんなこと言わないの」
「だって……」
あのかくれんぼ。
あれから家に帰ってない。
もう三年だ。
お互い十歳になった。
大きなこの館で、色んな勉強をさせられた。
ママとパパに頼まれたって。
字の書き取りとか、算数じゃない。
着物の着方。
紅の差し方。
踊り。
もう疲れて嫌になったこともある。
でも、逃げられないしサボれない。
一回館から逃げようとしたら、たくさんの大きい犬に体中噛まれて、凄く痛かった。
血もたくさん出た。
秋倉おじさんには、いっぱい叱られた。
お尻を叩かれて。
それからは覚えてないけど。
朋にも怒られた。
親切にしてくれるおじさんをガッカリさせるなって。
でもね。
おかしいよ。
ぼくは来たくて来たんじゃないのに。
「まだそんなこと言ってるの」
朋はウンザリな顔をする。
長くなった黒髪を一つに結わえて、ぼくの髪も整える。
朋ほど長くないから、肩まで下ろしているんだ。
「秋倉おじさんは優しい人なの。それでね、ボクは明日から特別に菊の間に連れて行ってくれるんだって」
「菊の間って……あの入っちゃいけないとこ?」
「そうだよ、雛。あのなかにね、ボクにあげたいものがあるって」
「朋はゆーしゅーだから」
秋倉おじさんの真似をする。
朋はゆーしゅー。
ぼくは違う。
わがまま。
だから、朋は凄いって思う。
けどね、いつも夢がそれじゃダメだって言ってるんだ。
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