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reach09

 細く白い肌に散らばる赤い痕。  それを見ていると光樹が気づいたように笑った。 「増えてるでしょ。本当に乱暴な奴等が多くてさ」  そっと指でなぞる。  光樹はくすぐったそうに身をよじらせた。 「なんで、俺に賭けたんだ?」  ぴくりと首が震えた。  雷が鳴る。  遠くで。 「そうだねー。不思議だよね。赤の他人でしかも一夜過ごしただけの應治を巻き込むなんてさ」  右手の親指を舐めたかと思うと爪を噛んだ。  ガリッと。  あまりに鋭い音だったから、急いで手を引き離す。  血の滴が飛んだ。  光樹の唇が赤く濡れている。  ヌルリと指が血で滑る。 「なにして……」 「ほら。やっぱり優しい」  かすれた声で。  涙を呑んで。 「ねえ……王子サマって姫の願い事はなんでも聞いてくれるんだよね」  俯いたまま、表情は見せない。  返事を待たずに続ける。  「だったら、俺を連れ出してよ」  震える手で首を摩り、眼を見開く。 「もう、手遅れかもしれないけどさ」 「なにが?」 「あいつらどうせあんたを帰すつもりないし。二時間たったら二人とも無事じゃ済まない……凜のことだからエグイ道具とか用意してるだろうし」  低く呟き続ける顔を上げさせる。  焦点が定まらない。  俺を見ているようで、未来を見てる瞳。  怯えた瞳。  嘘を吐いてキセルを咥えていた余裕こそがウソのように。 「キスはしてくんないの?」 「余裕ぶるな」 「別にー」  眼が笑ってない。  時計をチラと見上げるそぶりもぎこちない。 「あと一時間半、か。大変」 「此処ってドアはあれだけだよな」 「そうだね」  入ってきた扉を見遣る。  それから眼を合わせた。 「映画みたいじゃない」 「だから余裕ぶってる場合じゃないだろ」  ギシとベッドから足を下ろす。  向こうの人間にどのくらい音は伝わるんだろう。  猫のようにしなやかに床に立った光樹がキセルを拾って咥える。  ふうっと白い息が部屋に漂う。 「ここ、四階だよ?」  窓に近づいた俺に言う。 「隣の屋根に飛び移るとか言わないよね」 「そうしたいか?」 「どうだろうねー」

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