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reach10
外を窺っていた光樹が思い出したように部屋の隅の戸棚に近づき、乗っている本を凪ぎはらった。
バラバラと床に落ちる。
「なにやってんだ」
部屋の外に音が伝わってないだろうか。
急いで見た扉は静かだ。
光樹は一心に棚を調べていた。
側面に手を這わせて。
噛んだキセルが傾き灰が溢れる。
「探し物か」
「ちょっとね」
ピタッと指先がある木箱に止まった。
写真が入るくらいの。
「あった……」
「それがどうかしたのか。早く逃げ」
「應治、一日だけ命貸して」
真剣な声。
だから俺は笑い飛ばせなかった。
「もう貸しっぱなしだが」
「ふふー。後悔はさせないよ?」
金の金具を外し、箱を開ける。
中には吸引器具と白い粉が入った小袋。
明らかに連想するものは一つ。
「お、おいまさか」
「量のコントロールはプロだよ。あいつらに病院に連れていってもらうの」
名案のように言うが。
わかってるのか。
奴等は簡単に俺たちを殺すんだろ。
仮死状態になったところで放置されるのが関の山だろう。
助けるとしてもお前だけだ。
そんな反論を押し込めて、俺は箱を閉じさせた。
「應治?」
きょとんとした顔で光樹が見つめてくる。
「あいつらは何人だ?」
少し考えるそぶり。
「この階には四人かな。凜以外は末端の奴等だけど」
「喧嘩は?」
「弱いよ。俺でも勝ったことある」
「凜は?」
その弱いに含まれてないはずの男。
「……多分應治が六人いても無理」
「わかった」
俺は扉に足を向けた。
その瞬間後ろから抱きつかれる。
細い腕に。
「行かないで」
それは逝かないでってことか。
「大丈夫、助けるから。姫」
光樹の力が抜けた。
真っ赤になった顔を両手で包んでぺたりと座り込んでしまった。
潤んだ瞳が歓喜に揺れている。
口元は緩く開いて。
そう……呼ばれたかったんだろう。
はあ。
可愛すぎるだろ。
俺はなんとか足を踏み出した。
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