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finger11

 翌日楽屋に入ってきた帯乃を絶対零度の視線が貫いた。 「あ。桃ちゃん、おはよ」  ガンっと壁に押さえつけられる。 「いった……なーに?」 「昨晩タヤが指定のホテルに来なかったそうだが?」  黒スーツとグラが入ったサングラスを掛けた桃木は、裏の人間にしか見えない。  片方の手で握りつぶしている資料がみしみしと音を立てる。 「ホテルの場所がわかんなかったみたい」 「お前が親切に家に持ち帰ったらしいな」  やっと手を離した桃木が煙草を取り出して渡す。  帯乃はそれを受け取り、指先で転がしながらソファに座る。 「GPSでも着けてるの」 「ヤったのか?」 「はあ……もっとオブラートに訊けないかなあ」  コンコン。  ノックの後に扉が開く。 「会社から届いてます」  スタッフが封筒を置いて去っていく。  桃木がそれを開けるのを眺めながら帯乃は白い煙を吐いた。 「……人事から?」  目を通した桃木が今度は深く溜め息を吐いた。 「いつのまに……」 「事後に」 「結局読み通りハマってんじゃねえか」 「ねえー。もう桃ちゃん占い師に転職しちゃえばいいんじゃない?」  桃木は封筒をテーブルに投げ捨て、帯乃の隣に腰かけた。 「……火、貸せ」 「ん」  くわえた煙草を差し向ける。  桃木は自分のをその先端に着けて火を貰った。  二人は目を合わさずにそれぞれ煙を楽しむ。 「桃ちゃん」 「あ?」  帯乃は壁に貼ってある今季のCMで関わったスノボの宣伝ポスターを指差す。 「今度三人でスノボ行こう」 「ゲレンデで勝手にヤってろ」 「三人でがいい」 「阿呆」  本番が始まるのはこれから。  桃木は未来に群がる記者陣を想像して痛む頭を押さえる。 「頼むから捕まるなよ」 「桃ちゃん。僕を誰だと思ってるの」 「ロックスターだろ。早くメイク始めろ」 「つれないなあ。本当に可愛くない」 「うるせんだよ」  二人は笑いながらどちらからともなく煙草を灰皿に押し付けた。

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