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第15話 藍に乱点(5)

「あっちに行こう。露店があるんだよ」  袖を引っ張ったまま、先輩が浮かれるような早足で歩きだす。僕は慣れない下駄で転ばないように注意しつつ、後をついていく。  境内から出ると、露店の自家発電機のモーター音と人の声で一気ににぎやかになった。店先にとりつけられたライトは歩行者天国になった神社前の路地をぎらぎらと照らして、そこらじゅうからおいしそうな匂いが漂ってくる。  鳥居の前の狭い二車線道路の両側には露店が立ち並び、その間を親子連れや子ども同士が食べ物や飲み物やおもちゃを持って、ふわふわと歩いている。 「先輩、B級グルメ、グランプリだって!」 「ホルモン……噛み切れないからやだ」 「じゃあ、串カツとイカ焼き」 「後でね。まずは白くま探してからだよ」  出くわす店ごとに張り付こうとする僕を、先輩は引きずるように移動する。 「あっ、先輩、先輩。はしまきだって! ……はしまきって何?」 「お前は小学生かっ!」  怒る口調だけど、先輩の顔は思い切り笑っている。  どうして、この人はこんなに楽しくてしかたないって顔をしてるんだろう。  好きな子がいて、本当は、その子と一緒に来たかったはずなのに。  山田島が好きな女の子と六月灯に行きたいと言ってたことを思い出して、先輩が少しかわいそうになる。僕なんかに同情されてもしかたないだろうけど。 「ごめんね。白くまはなかったね」  ひととおり露店を見て歩き、歩行者天国の終わりの標識が見えたところで、先輩が申し訳なさそうに僕に謝った。  そのあたりは露店の列も途切れて、ぽつりぽつりと間隔を空けてともる街灯のあかりがあるだけだった。たくさんの人が歩道の縁に腰かけて、薄暗いのに話をしたり笑ったりしながら、食べ物をつついている。 「普通のかき氷でいいですよ。ほら、アメが載ってるのとかあったし」  鳥居の前あたりの、露店が固まって明るいほうを向いて立ち止まり、どの店から攻略しようか考えていると、急に爆発音と空振がした。  周りにいる人たちも一斉に東の空を振り返る。僕たちもその方角を見た。

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