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第16話 藍に乱点(6)

 背の低いビルの向こうにはいつものように黒っぽい火山のシルエットが見える。その上の暗い青色の空をぐんぐんと昇って広がっていく濃い灰色の噴煙。ずいぶんと高くまであがった噴煙の縁が沈みかけの夕日に照らされて、熟しかけのトマトみたいな朱色に染まっている。  この土地に住んでいると、大地が静かで揺るがない無生物だとは思わない。毎日のように火山は噴火し、息を吐くように灰を降らせる。  灰が降ると、町はほこりっぽくなって掃除が大変だったり髪の毛がバサバサになったりするけど、道路はロードスイーパーが掃除してくれるし、雨が降れば灰は流れて消える。家の掃除だって普通に掃除機かければいいし、髪の毛は風呂に入ればいい。  県外に住む兄は、爆発的噴火のニュースを聞いた職場の人に「お前の実家、大丈夫なのか?」と心配されたりするそうだが、僕たちにとってはこれが日常なのだ。 「先輩、どの店から行きます?」  ふと気がつくと、僕をじっと見ている先輩と目が合った。先輩はあっと小さな声をあげ、悪いことをした人のように薄暗がりに目を伏せる。 「……先輩?」 「純生ってほんと浴衣似合うね」  すぐに顔をあげた先輩は、何かをごまかすように、にこにこしながら持っていた傘の柄でぽんぽんと僕の肩を叩く。 「はぁ。自分では似合ってるかどうかわからないんですけど……なんで傘もってきたんですか?」  雲はあるけど、天気は良くて、星が光り始めていた。 「念のためだよ」  薄闇の中で、先輩はバトンのようにくるりと傘を回してみせた。

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