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第五章 繋がる心 露天風呂付温泉旅館③

 部屋に戻ると、布団が敷かれていた。いかにも旅館って感じの、清潔そうな白いシーツの掛かった布団。千紘は頭から飛び込んだ。   「きゃっははっ! すっげーふかふか! きもちい~!」    千紘がはしゃいで転げ回るから、せっかく綺麗に整えてあった布団がくちゃくちゃに乱れていく。   「オレこっちで寝っから! テレビちけーからよ。颯希はそっちな」    勝手に寝る場所まで決めて、テレビのリモコンに手を伸ばす。が、その前に俺は電気を消した。床の間の行灯だけが、ぼんやりと赤い光を放つ。    戸惑うような目をする千紘に、俺は覆い被さった。千紘に潰されても、布団はふかふかを保っていた。   「……すんの?」 「する」 「ふへ……でもオレ、もう四回も……」 「俺は一回も出してない」 「や、やっぱよっきゅーふまん……」 「ああそうだ。お前がエロいから興奮した」 「……っ!」 「だから、いいな?」 「ぅ、ン……」    返事を聞く前に、唇を奪った。仄かにバニラが香る、甘い唇。温泉の効果か、普段よりも艶がいい。舌触りも味も完璧だ。   「ゃ、まって……んな、したら……」 「すぐイッちまうか?」 「ぅ~……きす、きもち……」    千紘は口が弱い。敏感すぎて心配になるくらいだ。じっくりと歯列を辿り、上顎をくすぐると、それだけで体をビクビクさせる。恥ずかしそうに奥へ引っ込んだ舌を探り当て、舌先をちょんと突ついてやれば、カクン、と腰が跳ねて下腹部が湿る。    千紘は力なく四肢を投げ出し、苦しげに喘ぐ。俺は、ついさっき整えてやったばかりの浴衣を自らの手で開けさせ、胸元に手を忍ばせた。しっとりと吸い付くような瑞々しい肌を撫で、ぷっくりと膨らんだ桜色を掌で転がす。   「ん゛~っ、ちくびやだぁ」 「感じてるくせに」 「か、かんじるからやなの! おれ、男なのに……っ」 「気持ちいいのは悪いことじゃねぇだろ。次は乳首でイクか?」 「そんなんムリに決まってんだろ!」    胸を揉みながら指先で乳首を引っ掻き、もう一方は口で愛撫した。たっぷりの唾液を纏わせた舌で、焦らすようにねっとりと舐め上げる。滑らかな乳輪をなぞり、物欲しげに上向いた乳首を弾く。僅かな刺激を拾い上げて震える、この小さな性感帯が愛おしい。    左右を交代し、唾液でぬるぬるになった乳首を摘まみ上げた。ぬるぬるを塗り込むように扱いて、優しく転がして甘やかして、再び激しく捏ねくり回して、緩急を付けて愛撫した。    千紘は身を捩じらせて善がったが、胸だけの刺激で達するのは難しいらしい。わざとか無意識か、はしたなく股を開いて、もどかしそうに腰を揺らす。その姿は、男を誘う雌そのものだ。    俺は、千紘の浴衣の裾を開け、下着を脱がした。下着の中はさっき出した精液と、とろとろの我慢汁とで大洪水だった。ぷるん、と飛び出した桃色のそれは、皮を被った初々しい見た目とは裏腹に、いやらしくひたひたに濡れていた。   「さつきぃ……」    千紘の俺を呼ぶ声は、すっかり熱に浮かされている。   「おふろでしたやつ、またしてぇ……?」    おあずけされた犬みたいに、舌を突き出して喘ぐ。もう我慢できないとばかりに、腰がカクカク震えている。俺は、見せつけるように大きく口を開いて、幼い桃色にしゃぶり付いた。   「んぁ゛ッ――!」    口の中で、それは小さく跳ねた。しかし迸るものがない。千紘は不思議そうに目を瞬かせる。   「はぇ……? ぁ、なんれ……?」 「出さないでイクなんて、女の子みたいだな」 「ぉ、おれ、おんなのこ……?」 「乳首で感じるし、ここも……」    そっと後ろの穴を撫でる。   「挿れられて感じるんだから、かわいい女の子だな」 「かわい……?」 「ああ。かわいいかわいい」    すりすりと入口を撫でると、千紘は鼻にかかった声を漏らす。   「けど、ち、ちんちんもすきぃ……」 「千紘はどっちもされるのがいいんだもんな」 「うん、ン、なかもすき……」    ヒクヒクと蕾が引き攣れて、今まさに開花しようとしている。    が、しかし。俺は、最も重要なことを忘れていたことに気が付いた。ゴムもローションも家に置きっぱなしだ。    けれど、目の前に広がる絶景はあまりにも淫靡で、今更やめるなんてできそうにない。千紘と一つになりたい。一緒に気持ちよくなりたい。挿れたい。    しかし痛い思いはさせられない。それは絶対だ。生でやるなんてもってのほかだ。でもしたい。    俺は千紘の体を引っくり返し、腰を高く上げさせた。浴衣の裾が邪魔になるから、捲り上げて帯に挟んでしまう。白い尻を鷲掴みにし、その谷間で包み込むように、下着から引きずり出した己の分身を擦り付けた。   「ひゃっ!?」    千紘が驚いたように振り向いた。肩越しに覗く顔が真っ赤だ。それを気遣ってやることもできず、俺は腰を揺する。    思わず声が漏れるほど気持ちいい。無駄な肉の付いていない薄い尻だが、肌はすべすべしていてハリがあって、触り心地は抜群だ。そして、そんな若さ漲る瑞々しい体に、己の欲望をまざまざと突き付けている背徳感。ぞくぞくする。    しとど溢れる我慢汁を塗り付ける。ぬちぬちと微かに水音が聞こえ、それがまた淫靡で堪らない。千紘の腰が反り、蕾が再び開花しようと引き攣れる。    挿れたい。どんなに気持ちいいだろう。濡れた亀頭で蕾を擦る。苺色の唇が捲れ、潤んだ果肉が見え隠れする。ここに体を沈めたら、どんなに気持ちいいだろう。ああ、挿れたい、挿れたい。頭の中はそればっかりだ。   「さ、つきぃ……?」    千紘が、一生懸命に体を捻って後ろを向く。   「いれないのぉ……?」 「……っ」    挿れたいに決まっている。   「……挿れない」 「なんでぇ?」 「ゴムがない」 「……な、なくてもいーよぉ」    このエロガキは! 生ですることの罪深さを分かっていないから、こうやって簡単に男を煽る。俺が今ギリギリの土俵際で踏ん張っていることを分かっていない。   「ダメだ。ローションもねぇ」 「でもぉ、すげーぬれてっし……」 「ダメったらダメだ。これ以上俺を怒らせるな」    俺は千紘の太腿を閉ざし、自身を差し入れた。所謂素股というやつだ。千紘の腿を左右からしっかり押さえ、自身を圧迫しながら腰を振ると、擬似的な挿入感を得られる。二人分の先走り汁で滑らかさは十分。まるで本当に挿れているみたいだ。    腰を打ち付けると、千紘の細い背中がビクビク波打つ。くちゃくちゃに乱れた、それでいてまだ清潔なままのシーツにしがみつき、しかし尻だけはこちらへ突き出したいやらしい恰好で、千紘は善がり狂う。   「やっ、あっ、あ、だめ、きもちいいっ、だめぇっ」 「……声抑えろ。ラブホじゃねぇんだぞ」 「ぁそこっ、それぇ、そこぐりぐりって、ぐりぐりしてぇっ」 「ったく……」    まだ性の味を覚えたばかりの千紘にとって、ペニスを擦られる快楽が最も分かりやすいものなのだろう。子犬みたいにひゃんひゃん喘ぐ。お望み通り、エラの張ったカリ首で裏筋をぐりぐり擦ってやる。千紘は、シーツに頭をぐりぐり擦り付けて悶える。   「ぅ゛ぅ~~ッ!!」 「また出さねぇでイッたのか、淫乱」    俺は、力の抜けた千紘の体を抱き起こし、膝立ちにさせた。右手を導いてペニスを握らせ、その上に俺も右手を重ねる。左腕で千紘を抱きしめて、顎に手を添えて後ろを向かせる。   「太腿、力入れてろよ」    以前よりは肉付きがよくなってきたとはいえ、豊満とは対極にある貧相な体をしているのに、どうしてこんなにも抱き心地がいいのだろう。    今までに抱いてきたどんな女よりも――自慢できるほどの恋愛遍歴を持ってはいないが――温かくて、気持ちがいい。抱いているだけで、幸福が湧き上がってくる。    あまりに細っこいので、抱き潰してしまいやしないかと不安になったりして。だけど、確かに男の体だから、頑丈さに対する信頼もあって。多少無理を強いてしまうこともしばしばだ。   「んンぅ……ゃ、くるしっ」    喘ぎ声がうるさいからキスで黙らせようとしたが、千紘は顔を背けて嫌がった。しかし、そんなことで逃がしてやれるわけがない。全身隙間なく密着して、心も限界まで近付いているのに、唇だけ離れるなんて寂しい。    俺は、少々強引に千紘の顎を掴んで引き寄せて、その唇にしゃぶり付いた。閉じた口をこじ開けて、舌を捻じ込む。途端に唾液が溢れてきて、締まりのない口の端からとろりと垂れる。    たっぷりと濡れて、さながら蜜壺のようになった口内に舌を突き立てて、ぐちゅぐちゅと音を鳴らして掻き回す。こんなの、ほとんどセックスと変わらない。濃厚なキスに酔いしれて、俺は夢中で腰を打ち付けた。    いよいよイキそうというところで千紘の太腿が一際きつく締まり、それが決定打となった。僅かに残った理性を総動員して、俺は右手の中に精を放った。    どさり、と千紘は布団に倒れ込む。指一本さえ動かせないという風に力なく横たわって、ぜぇぜぇ、ひゅうひゅう、と苦しげに喘ぐばかり。その恰好といったら、酷いものだ。同意のはずだが、まるで乱暴された後みたい。    緩んで乱れた帯が胴体に巻き付いて、汗を吸った浴衣がかろうじて引っ掛かっているだけ。下腹部は諸々の体液で汚れ、全身汗みずくだ。本来ふわふわしているはずの髪もすっかり乱れて、上気した頬に張り付いている。    まず俺の頭に浮かんだのは、やりすぎたな、という反省の気持ちだ。長いこと焦らされていたこともあるが、それにしても欲望を思い切りぶつけ過ぎた。    コンドームもローションもない状態で、土壇場で挿入を回避した自分は褒め称えたいが、挿入さえしなけりゃ好き勝手やっていいってもんじゃない。    次に頭に浮かんだのは、後始末のことだ。寝相のせいにはできないほどに乱れた布団、汗やら何やらが染み込んだ浴衣。清掃員にどう思われるだろうか。    ラブホテルならどうだっていいが、ここは普通の旅館なのだ。というか、万が一にも精液が飛んでいたら最悪だ。寝る前に確認しておかなくては。   「さ、っき……」    最後に頭に浮かんだのは、乱暴された後みたいになっている千紘も、やっぱり天使みたいに愛らしいということ。掠れた声で呼ばれたので、俺は千紘の隣へ横になり、余韻に浸る熱い体を抱きしめた。   「辛かったか?」 「んーん……すげぇよかったぁ。えへへ」 「俺もだ。なんかすげぇよかった。挿れてないのに」 「いれてもいーんだぜ?」 「バカ。簡単に言うな」 「おれは、さつきになら……」 「帰ったらしてやるから。今日はもう眠れ」    終わったそばから煽るようなことばかり言う千紘を、キスで甘やかして寝かし付けた。柔らかい頬に、瞼に、鼻の頭に、最後はもちろんかわいいおでこに。    千紘を綺麗な方の布団に移し、俺は一通り後片付けをしてから寝た。    *    目の前が朝日で眩しい。    いや、違う。これは千紘の頭だ。しなやかな猫っ毛が、俺の睫毛をくすぐる。家のシャンプーとは違う、温泉の匂いがする。それから、昨夜の汗の匂い。こうして千紘の香りが出来上がっていくのか、と思うと一滴だって漏らしたくなくて、俺は深く息を吸った。    肺が千紘で満たされて、腹の虫が鳴いた。自然と、俺の手は千紘の胸元を弄った。衿の合わせから忍ばせて、サクランボみたいな小さな膨らみを摘まみ、指先でくりくり転がす。    そうしていると、だんだん腹が空いてくる。ちょうど眼前に差し出されている、白い首筋に舌を這わせた。   「んっ……」    抱きしめている体が震えた。千紘が肩越しに振り向いて、赤い頬を膨らます。   「……えっち」 「……腹減ったんだよ」 「えっ、オレんこと味見してたん……?」    千紘の、素直に怯えたような表情がかわいい。   「そうだな。お前はちょっとしょっぱい」    首筋から耳の裏をべろりと舐め上げる。千紘は身を震わせて、舐められた箇所を押さえた。   「しょ、しょっぱいとか、なんかヤなんだけど……」 「なんでだよ。うまそうだろ」 「お、オレなんか食ってもオイシクないヨ」 「いや、うまいだろ。実際」    時計を見れば、そろそろ朝食の時間だった。夕食がおいしかったので、朝のバイキングも期待できる。俺は乱れた衣服を整えて、千紘の浴衣も整えてやって、部屋の扉を開いた。

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