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第五章 繋がる心 クリスマス・プレゼント②

 颯希はあくまでも事務的に、朝っぱらから汚れてしまった千紘の体を、隅々まで丁寧に拭いてくれた。   「これに懲りたら、寝込み襲って生セックスなんかすんなよ」 「なんでぇ? またしてぇ」 「……あんまりよくねぇんだよ、道徳的に。お前はまだ高校生だし、女だったら妊娠しちまうし」 「オレぁ男だもん。妊娠しねー。保健体育で習ったぜ。中出ししほーだいじゃん」 「そういう問題じゃねぇ。……中出しとか、よそで使うなよ」   「なんでだよぉ。生エッチきもちーし、中出されんのもきもちーのに、なんでダメなんだよぉ。オレぁ毎晩ナマでしてぇ」 「毎晩なんかするわけないだろ」 「んだよぉ、颯希だって気持ちかったくせにぃ。いつもよりすごかったもんな。あんなん毎晩されたらよ~……そりゃまぁ、確かに疲れちまうかもな」 「当たり前だ」   「じゃあ、たまにならいい? 週一とか」 「それでも多いだろ」 「え~? んじゃあ、月一とか?」 「……まぁ、たまにならな」 「マジ!? やっりぃ~。約束だかんな! 絶対守れよな」 「今日やったから、しばらくはなしだな」 「ケチぃ~」    全身を綺麗にしたら、下着を履くところから服を着せてくれた。颯希がやたらと甲斐甲斐しく世話を焼くので、千紘は嬉しいようなむず痒いような、やっぱり嬉しい気持ちになった。これも中出しエッチのおかげかと思うと、次の機会が今から待ち遠しい。   「つーか、クリスマスの朝なんだから、セックスなんかより先に確認すべきことがあるだろうが」 「なに?」    千紘が首を傾げると、颯希は窓際に視線をやる。寝る前には何もなかった空間に、シンプルなラッピングのプレゼントが置かれていた。   「あっ……!」 「忘れてたって顔だな」 「わ、忘れてねぇ! 今思い出しただけだし」 「それを忘れてたっつうんだよ。プレゼント、実はそんなに楽しみじゃなかったのか」 「んなわけねーじゃん! 楽しみに決まってんだろ!」    千紘がベッドを下りる前に、颯希がプレゼントを取って寄越した。   「あンがと」 「開けてみろ」    林檎のような赤いリボンを解いて、もみの木のようなグリーンの袋を開く。   「おおっ!? ……コレ! これは! スーパーにめっちゃ並んでたやつ!」    お菓子がいっぱいに詰め込まれたクリスマスブーツだ。買い物の時いくら頼んでも買ってもらえなかったのに。   「こっちは頼んどいたゲーム機! ソフトも付いてら! サンタは太っ腹だな~!」 「お礼言っとけよ」 「おう! ありがとな!」    千紘が笑いかけると、颯希は困ったように笑った。   「俺に言ってどうすんだよ」 「だってオレ、颯希に拾われなかったらさ、サンタになんか一生会えなかったと思うし。だから、颯希にゃ感謝してんだ。オレ、この家に来てよかったよ。颯希に会えてよかった」 「そうか」 「颯希も、オレに会えてよかったろ?」 「……」    颯希は立ち上がり、千紘の頭をわしわし撫でた。   「ココア淹れてくる」    颯希はキッチンへ消えた。ベッドに残された千紘は、撫でられた頭にそっと手を当てる。    本当は、颯希がサンタクロースだってことを知っていた。だから、余計に嬉しい。見知らぬ白ひげジジイより、颯希にプレゼントをもらいたい。    サンタに頼むおもちゃは一個だけ、なんて口うるさく言っていたくせに、いざとなると千紘が欲しがっていたお菓子やゲームのソフトまでプレゼントしてくれる、颯希は大概千紘に甘い。    けれど、一番欲しいものは待っているだけじゃ手に入らない、ということも千紘は知っていた。欲しいものがあるなら、自ら手を伸ばして掴み取らなくてはいけない。    だから今朝、朝日に照らされたクリスマスプレゼントよりも、目の前にある一番欲しいものに集中してしまったのだ。だから、千紘はそれを手に入れることができた。    颯希が、マグカップを二つ持って戻ってきた。ベッドに座る千紘に片方手渡す。ほかほかと白い湯気が立ち上る。   「ここでいーの?」 「今日だけ特別だ」 「まじか~。太っ腹ぁ」    普段はベッドで飲み食いするなとうるさいのに。これもまた、クリスマスの為せる業だろうか。特別感があってわくわくする。   「零すなよ」 「ん。いただきまぁす」    温めたミルクで作ったまろやかなホットココアが、渇いた喉を優しく癒す。体の芯からぽかぽかして、冷えた指先までじんわりと温まる。   「あまぁ~。やっぱ冬はこれだよな」 「ゆっくり飲め。火傷するぞ」    颯希もベッドに腰掛けて、カップを傾けた。中身はいつも通りのブラックコーヒーだ。ほろ苦い香りが、千紘は好きだった。味はまだ、大人っぽすぎて好きになれないけれど。    颯希の吐いた息が白い湯気と絡み合って、雪のように溶けて消えた。千紘の視線に気付いたのか、颯希も千紘を見つめる。   「どうした。寒いのか?」 「ん……」    カップを一旦サイドテーブルに置いて、颯希は千紘の肩に毛布を掛けてくれた。   「まださみー……から、もっとこっち来て」    千紘が甘えると、仕方ないなという風に颯希は笑い、そっと距離を詰めた。一枚の毛布を分け合い、二人肩を寄せ合う。   「へへ。あったけー」 「ストーブ持ってきてやろうか」 「やーだ。こんままがいい」 「甘ったれめ」 「颯希が甘やかしてくれっからいーんだもん」    千紘は冬が好きだ。ふわふわの毛布が暖かいから。ミルクココアが甘いから。それもあるが、一番の理由は、寒さを理由に颯希にくっついていられるからだ。寒さにかこつけて颯希に甘えられる、そんな季節が千紘は大好きだった。    窓の外はうっすらと雪が積もり、世界が純白に染まっている。清浄な朝日を浴びてキラキラ輝くその景色を、千紘は初めて美しいと感じた。

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