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第1話

4月1日。 今日から新学期。 とはいえ、本日は土曜日で学校は休みだ。 新社会人となった三条は、恋人の長岡の部屋を訪れ穏やかな時間を過ごしていた。 月曜からの勤務に備え、三条は鋭気を養う。 お揃いのマグに満ちるコーヒー。 買ったばかりの新刊本。 長岡の部屋だと分かるそれらが三条を更にご機嫌にさせる。 「遥登」 「はい?」 目の前が陰り、良いにおいが濃くした。 そして、それと同時にやわらかなものが唇へと降れている。 知っている。 覚えている。 この感覚。 とても愛おしくて、大切で、そして我慢していた。 目の前の顔が嬉しそうに緩んだ。 ちゅ 「やわらけぇ」 「……っ!!」 「やっぱ唇は痩せねぇんだな」 子供みたいな顔で笑う恋人は満足そう。 反対に、三条は口をぽかんと開けたまま動けないでいた。 今のは… 「キス……」 「ん?嫌だったか?」 嫌なはずない。 ずっとしたかった。 ずっと、ずっと、ずっと我慢してた。 長岡を守りたいからしないでいた。 「あっ、拭かないと…っ!」 そうしてやっと、いつものように回り出す。 駄目だ。 万が一があったら。 慌てて袖口で擦ろうと腕を伸ばしたが簡単に手首を掴まれてしまう。 「もう大人だろ。 一緒に責任、とろうな」 穏やかな顔で、優しい声で諭すようにそう言われ、目の奥がじんわりと滲んだ。 長岡は、すごく優しい顔をしている。 恋人の顔で。 もう、こんな我慢……しなくても良いのか…? 「いっしょ、に…?」 「そう。 一緒に」 ぼろぼろと涙が零れた。 もう、良いんだ…… 「待たせたな」 長岡は、細い身体をしっかりと抱き締める。 細い身体に腕を回し、背中をしっかり抱かれ自身の方へと抱き寄せるように。 キツく、強く。 「奨学金借りて大学通ってんのに、なんかあったら申し訳ねぇだろ。 本分が筋通せねぇとか親御さんにも申し訳ねぇし。 それに、ご家族の事とか本当に万が一の事とかも考えてて、せめて卒業するまではって思ってた。 社会人になったら、めちゃくちゃしてやろうって」 背中に回る腕に一層力が入る。 けれど、苦しくなんてない。 このまま溶けてくっ付けば良いのにと思う。 「遥登は、やっと夢叶えてスタートラインに立ったばっかなのにずりぃよな」 「ん、ん、狡くないです…」 「今なら、一緒に責任とれるだろ。 俺も、覚悟決めたしな。 言わなくて悪かった」 遥登の人生滅茶苦茶にしても一緒にいてぇ。 そんなプロポーズじゃないか。 「顔ぐちゃくちゃ。 かわい」 「ティッシュください…」 「後で、な」 片腕で背中を抱かれ、もう片手で頬を撫でられた。 そして、そのままキスをする。 ちゅっと触れるものから食むようなものへと変わり、そして唇を舐められる。 開けろ、の合図。 誤魔化しの効かないに濃厚接触になってしまう。 けど、口を開けた。 薄く開くそこから長岡の舌が入り込んできて、舌を舐める。 ヌルヌルと触れ合わせ、今度は上顎。 それでも足りないと動く舌。 「ん、ん…」 鼻にかかった声を漏らしながら、三条からも辿々しく舌を触れ合わせた。

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