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第29話
「待たせた」
隣に座ると、すぐにブランケットがかけられる。
たったそれだけなのに、すごくあたたかくなるのは気のせいだろうか。
「遥登は寒くねぇのか?」
「丁度良いです。
手は…少しだけ冷たいですけど」
先程のがバレたせいか素直に告白する手に触れれば、自分の方が冷たくてあたためるのは無理だとすぐに理解した。
けれど、三条の反応は違う。
嬉しそうな顔をするから手を離せない。
本当に甘やかしてくれる子だ。
「あったかいです」
「遥登の方があったけぇだろ」
「マグカップであったまってましたから」
「それにしても、買い物してきた俺と同じくらいだったけど部屋でなんかあったのか?
手伝えることなら遠慮せず言えよ」
同じタイミングで学校を出た。
そもそも準備室の施錠をしたのは自分だ。
そこらスーパーで買い物をして帰宅したのに、三条は帰宅後に部屋を訪れた。
この部屋から10分もかからないほどの距離のはずなのに。
「弟と連絡してて。
やっぱりなんか心配で…」
「弟の方も心配してただろ」
「はい。
大丈夫だったかすごく聞かれました」
ほぼ定時で帰ることが出来たので帰宅時間の方はさほど気にはならないだろう。
問題は人間関係だ。
準備室にいる分には問題はなくとも、人間には相性がある。
他の教職員や生徒たち。
その相性は目には見えないのが問題だ。
また過度なストレスで蕁麻疹や引っ掻きが発症したら…。
それはきっと弟も心配でたまらないだろう。
「心配かけないようにしないと、なんて思うな。
なにしたって心配すんだから。
俺たちが勝手に遥登を好きで心配してんだからな」
赴任したてではどうしたって緊張するのと同じ様に、どうしたって心配してしまう。
けれど、それが悪いことが聞かれれば答えは必ずしも悪いこととは限らない。
頑張らなきゃと思っていることの裏返しなんだから。
だから、出来る限りのサポートはしたい。
学校でも、仕事外でも。
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