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第3話 逃げたいのに
「あ、秋斗君!」
真弘さんの声が背中に聞こえてくるけど、戻る気にはなれなかった。
真弘さんはアルファで、俺はアルファでオメガ。
もし真弘さんと一緒にいたら俺はきっとあの人に抱かれてしまうだろう。
そう言う関係を持ちたくはないし、そもそもアルファとしてのプライドが許さない。
通りに出てもつれる足で走り、路地に入り込む。
周りを通り人々が皆、アルファに見えてくる。
オメガもアルファも全人口の一パーセントもいないからそんなことあるわけねえけど。
俺、このまま帰れるのかな。
俺はどこかのビルの壁に背を預け、下を俯き額の汗を拭った。
「……あぁ、いた」
息せき切らせた声がかかり、俺はびくっと身体を震わせ顔を上げた。
通りからこちらに歩み寄ってくるその男は、バーにいたやつだった。
男から漂う匂いに目まいを覚え、俺は口を押え首を振る。
近づかないでほしい。
なのに身体が動かない。
「発情、してるんでしょ? ベータでもオメガのフェロモンにやられるやつがいるから……このままここにいたら危ない。送っていくよ」
と言い、彼は俺に手を伸ばした。
「薬、持っていないの」
問われて俺は首を横に振る。
持って来てるわけがない。
昔は持ち歩いていた。だけど……必要ない、と思ってここ数か月は持ち歩くのをやめていた。あったら自分がオメガであると認めているような気がして、嫌だったからだ。
それに検査では発情の兆候はないしこのまま発情期が来ないようなら手術を考えようって話も出てきていた。
だから油断していたわけだけど……俺馬鹿かよ。
身体が熱い。穴の奥が疼いてほしくてたまらない。
「俺は薬飲んだから……タクシー呼んでるから行こう」
彼は俺の腕を掴みそして引きずるように通りへと出た。
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