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第5話 望み★
「ねえ、ちょうだい?」
自分でも驚くほど甘く切ない声が漏れる。
男が息を飲むのが聞こえ、俺はうつ伏せになり男に向けて尻を向けた。
「すごいな……びしょ濡れ」
と呟き、男は俺の後孔に指を突っ込んだ。
「あぁ……」
指一本ですげえ気持ちいい……
でも欲しいのは指じゃない。
もっと太くて熱いものだ。
俺は尻を振り、男を振りかえり言った。
「指じゃやだぁ……」
「……ちょっと待ってて」
苦しげな声で男が言った後、衣擦れの音が響く。
そしてベッドの軋む音が聞こえたかと思うと男は俺の腰を掴みそして、
「ごめんね……」
と、苦しげな声で言い、一気に俺の身体を貫いた。
「ひっ……」
やばい……挿れられただけなのに視界に星が散る。
自分でペニス扱いてイくより気持ちいい。
俺は自分からも腰を振り、さらに快楽を拾おうとした。
「あ、ン……気持ちいいよぉ……奥、奥もっと突いて」
「……中きつくて気持ちいい……」
男は余裕のない声で言い、さらに奥へと腰を進める。
子宮に届くんじゃないかってくらい深く男のペニスが入ってる。
「あ……ン……奥、いいよぉ……」
今まで出したことのない甘い声で言いながら俺は、びくびくと身体を震えさせ精液を放った。
「う、あ……やばい、俺もイく……」
男はそう呻くように言い、動きを止める。
互いに荒い息を繰り返しそして、俺の頭が徐々にはっきりしだす。
男とやった。
しかも中に……出された?
血の気が引く音が聞こえ、男がずるり、とペニスを俺の中から引きずり出す。
「あ……」
思わず甘い声が漏れるけどそれどころじゃない。
冷や汗が流れる中俺は男を振り返った。
裸の男は自分のペニスに手を掛け、ゴムを外している所だった。
あ……よかった。ゴム、してたんだなこいつ。
安心した俺は身体の力が一気に抜けて、ベッドに倒れこんだ。
そうだ、薬、どこにあるんだっけ……リビングの……えーと……どっかの引き出しの中だ。
後で飲まねえと。
「えーと……秋斗君……だよね」
男が申し訳なさそうな声で言う。
怠い身体を起こすと、男は服を着て俺を見下ろしていた。
いつの間にか寝室の灯りが点けられていたらしく、眩しさに俺は目を細める。
「そう、だけど」
「ごめんね。こんなことする気はなかったんだけど……」
と言い、男は顔を伏せる。
望んだのは俺だし、男を責める気はなかった。アルファは発情したオメガに逆らえないのは知っている。
そして俺はこいつのペニスを喜んで咥えたんだし、薬をもち歩いていなかったから、こうなったのは仕方ないと思う。
俺は首を横に振り、
「あんたのせいじゃないよ」
と言った。
それでも男は顔をあげない。
「強姦したみたいで嫌なんだけどね……」
と言い、男は苦笑する。
店は暗くてよくわかんなかったけど、こいつ、俺より年上っぽい。
「えーと、俺は神宮寺尊。あの店には時々行っているんだ。で、マスターから君の住所とか聞いてここに届けたんだけど……ごめんね、送るだけですぐ帰るつもりだったんだ」
超申し訳なさそうな顔をして、神宮寺さんはまた顔を伏せてしまう。
「あんたアルファだろ? らしくないな」
すると神宮寺さんは首を横に振って言った。
「あはは、そうかもね。オメガを目の前にした事ってそんなになくって。俺、両親を早くに亡くしてて、祖父母に育てられたんだけど、そのせいかフラれてばかりだから」
両親がいないとそういうことになるのかよ。
俺には理解できない世界だった。まあ、そもそも俺、見合いしたことないけど。
「後ろ盾がないって思われちゃうみたいで、嫌がられるんだよね」
後ろ盾かあ……オメガはアルファの肩書で選ぶ傾向があるって事か。
見合いなんてそう言うもんなのかもだけど、なんかすげえリアルだな。
「ところで君は何者なんだい? オメガの匂いと……アルファの匂いがするけど」
神宮寺さんが戸惑うのは無理もねえよな。
俺はベッドに腰かけ、彼を見上げて言った。
「俺、ちょっと変わってて。アルファであってオメガなんだよ。だから毎月病院に行ってて、オメガとして発情期が来ないようなら手術しようかって言ってたところ」
でも発情期が来てしまった。そうなると俺、どうなるんだろ?
当初の願いどおりアルファとして生きるのか、オメガとして生きるのか。
俺の中に迷いが生まれている。
俺の話を聞いた男は複雑な顔をして俺を見下ろしていた。
だよなあ。
こんなこと人に話したのは初めてだから反応は想像できなかったけど……でも、どういう顔したらいいか分かんねえだろうな。
「ごめん、そういう複雑な事情、抱えてると思わなかった」
「別にいいよ。そういう性質を持って生まれたのは仕方ねえし。あんたを巻き込んでごめん。まさか発情するとか思ってなかったから」
そんな傾向は何もなかったのに、なんで発情したんだろうか。
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