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第6話 運命

「……ごめん、たぶん君は俺の……」  神宮寺さんは呟きそして黙ってしまう。  なんだよ、おい。  変なところで切るなよ。  神宮寺さんは複雑な顔をして俺を見つめる。 「君はきっと俺にとって運命の相手なんだよ」  運命。と言う言葉に俺の心が震える。  運命の番の話くらい、俺だって知ってる。  魂が共鳴するとか言う相手だ。  まさかそんなことあるかよ?  だから俺、こいつの匂いに反応して発情したとか?  運命のいたずらかよ。真弘さんの店でそんな相手に会うとか、あるかよそんなの。  真弘さんに、発情したら僕が番になるとか言われたばっかりなのに。  やべえ……真弘さんの顔、まともに見られないかも。 「バーのマスターは君を追いかけようとしたんだけど……あのあと別の客が来てそう言うわけにもいかなくなって俺が君を追いかけることになったんだ。マスター。苦しそうだったけど、君と彼はどういう関係なんだい?」  俺の様子を窺うように神宮寺さんは言った。  あ、これ、なんか疑ってる。それはそうだよな。  俺は首を振って言った。 「何って、従兄だよ。俺の父方の従兄。それ以上なんにもねえよ」 「そっか……」  神宮寺さんの呟きは心底安心したようなものだった。  あれかな、恋人か何かと思ったんだろうな。  真弘さん、そんなに焦っていたのかな。後で連絡しねえとな。  神宮寺さんは首を振ったあと深く頭を下げて言った。 「君の同意を得ず、こんなことしてごめんなさい」 「べつに謝る事じゃねえよ。薬を持ち歩いてなかった俺が悪いんだし、誘ったの俺だし」  っていうかあの状況でゴム買いに行ってたんだよなこの人。もし生で出されていたら俺は妊娠する可能性が高い。  それにオメガが発情した状態でアルファにうなじを噛まれたら一生そのアルファに縛られることになる。でもこの人が俺のうなじに噛み付かなかった。  その冷静さ、忍耐強さはすげえ。アルファにも抑制剤があり、それを飲めば発情するオメガを前にしても大丈夫だと聞くけど、運命の番を前にしてその平静さを保つのはよほどの事だろう。  俺だってアルファだからそれくらい理解できるつもりだ。  発情したオメガに会ったことねえけど。 「強引に関係を持つんじゃなくって、徐々にああいう関係になりたかったんだけどね」  と言い、神宮寺さんは苦しげな顔をする。  あー、この人真面目なんだな。アルファってもっとがっつくもんだけど……っていうか俺ならがっつくし、同じ状況に置かれたら容赦なくうなじを噛んでいただろう。  でもこの人はそうしたくなかったんだな。  おかげで俺は妊娠の危機も、番にされることもなかったわけだけど。   「今度からは薬、持ち歩くようにするよ」  言いながら俺は立ち上がり裸のままリビングへと向かう。  リビングに置いてある書類ケースの引き出しのどこかに抑制剤があるはずだ。  俺が引き出しの中から抑制剤を見つけ出した時、神宮寺さんに後ろから抱きしめられた。  この人の匂い、まじでやべえ。またやりたくなる。  俺は慌てて薬を口の中に放りこみ、そのまま飲み込んだ。  しばらくすれば効いてくるはずだ。  ……果たして運命の番の前で薬がちゃんときくのかわからないけど。 「ごめん、でも、こんなお願い間違ってるとは思うんだ。でも……ねえ、お願いがあるんだ」  耳元で響く彼の苦しげな声に、俺まで苦しくなってくる。 「……なんだよ、いったい」 「俺と、付き合ってほしい」  それは俺にとってオメガとして生きてほしい、ということでもあり俺は頷くことも首を横に振ることもできなかった。 「え、あ……付き合うって……」  俺の口から出た声は震えていた。それはそうだよな。俺にはまだ、オメガとして生きる覚悟、無いんだから。 「すぐに答えを出してほしいとは言わないから。ただ俺に、そのチャンスをくれないか?」  その声は本当に苦しそうで、俺は拒絶することができなかった。  俺がオメガとして生きるのか、アルファとして生きるのか。  その答えを出すのはしばらく先になりそうだ。

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