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第6話
翌日の土曜日。
遠山のとの待ち合わせ場所に着くと、遠山が朝霞に向かって手を挙げて居場所を知らせていた。
「なんか、雰囲気が違うな」
「そうですか?会社以外の時はこんな感じですよ?変ですか?」
遠山の服装を見て朝霞は言った。ブラックデニム、ショートブーツ、Ⅴ字のセーターにジャケット。遠山なら、もっと可愛らしい感じの服装なのかと朝霞は勝手に想像していたのだ。こう、ふわっとした感じの。
「昨日、谷山さんとイタリアンだったでしょう?なので、今日は和食にしてみようかと」
「何で知ってるんだ?谷山から聞いたのか?」
「はい。だって、おんなじ様なもの二日連続なんて嫌でしょう?ちょっと、わかりにくいところなんですけど」
遠山は事前に谷山に何を食べに行くのか聞いておいたのだという。確かに遠山の言う通り二日連続イタリアンというのは、嫌というわけではないが出来たら違う所の方がいいのは確かだった。
「まだ、時間早めなんで空いてると思いますよ。あ、こっちです」
遠山は朝霞の半歩先くらいを歩きながら、時折振り返って声をかけてくる。遠山の後に続いて歩いていたら、マンションのようなオフィスビルのような建物のエントランスへと進んでいく。
「…遠山、これ…」
「マンション、なんですよ。あ、いきなり課長を引きずりこんだりしませんよ。ここの一室がお店になってるんです」
遠山の進んでいく先が、どう見てもお店があるような雰囲気には見えなくて、朝霞は一瞬立ち止まった。すると、遠山は朝霞の様子に気が付いたのか、少し笑いながら僕の方が地下ア弱いと思いますけど、と言ってこの建物の中の一室がお店なのだと教えてくれた。
エレベーターを降りて、本当に普通のマンションのような扉が並ぶ中で、一つだけ扉にプレートが付いているところがあった。
「どうぞ」
遠山がその扉を引き、朝霞を中へと通してくれた。
「うわ…、すごいな…」
「でしょう?こんなとこにお店があるなんて面白くないですか?」
扉を開けると中は完全に店の作りになっていて、カウンターの奥、通常ならリビングになっている場所にはテーブル席が、他の部屋も回想して繋がっているらしく、割とゆったりとした空間が広がっていた。朝霞に答えながら、遠山が店員に声をかける。
「予約している遠山です」
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」
店員の誘導で奥の窓際の席に案内された朝霞は、遠山と向かい合ってその席に着いた。
「コースで取ってるんですけど、嫌いなものとかあります?ここ、季節に合わせてのコース料理が人気なんですよ」
「特にないな。それにしても、こんなところに店なんてあったんだな。驚いた」
コースで予約を入れたと言った遠山に返事をして朝霞は言った。この近くを通ったことなんて何度もあるのに、こんな店があるなんて知らなかった。
「本店は違う所にあるんですよ。で、本店より少し値段が安くなってて隠れ家的な感じのこっちは、3年くらい前に出来たんです。ちょっと、びっくりでしょう?あ、コースに合わせてお酒も選んで出してくれますけど、好きなものあったら頼んでくださいね」
遠山は朝霞に説明しながらメニューを広げた。朝霞が遠山の年齢の時には、こんな店などいかなかったように思う。最近の若い子はこういうところにも出入りするのか、などと考えてしまって、朝霞はこんな事を考えること自体が自分も歳がいったという事なのか、と苦笑した。
「何か面白い事言いました?」
「いや、俺が若い時はこういうとこなんて知らなかったな。と思って」
「ここは和食ですけど、こう路地裏みたいになってるとこにある、バルとか?なんか隠れ家っぽいのが見つけたって感じがしませんか?」
「それはそうだな」
順番にコースの料理が到着し、遠山の言った通り食前酒に始まり、刺身にはこれ、肉にはこれ、といった風に少しずつ風味と香りの違う日本酒が提供される。お酒が飲めない人にはお酒無しのコースもあるらしいが、遠山は二人とも飲める方だからお酒月のコースにしたのだと話した。
〆のご飯ものが出てきた頃には、食前酒を含めて五杯ほどの酒を飲むことになった。朝霞は、遠山の様子が気になり顔色を見てみたが、遠山も平気な様子で提供されてきたものを全て飲み切っている。
「この後、行きたいところがあるんです。バーというかラウンジというか、そんな感じのお店なんですけど。この間、飲みに行った先で教えてもらって、僕もまだ行ったことないんですけど、付き合ってもらえませんか?」
たまに行くバーで出会った人に、教えてもらった店に行ってみたいのだという。
「この近くなのか?」
「少しだけタクシー乗りますけど、十分くらいなんで遠くはないですよ」
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