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第5話

「当たってる」  はっきりとゲイだとも言い出せず、だからと言って女が好きだと嘘をつくのも悪い気がして、朝霞はボソッと呟いた。 「え?ほんとですか?」 「ああ」 「良かった」  朝霞の呟きに、答えた谷山は少し照れくさそうに笑っている。朝霞の答え一つでそんな顔をするとは思っていなかった。チャラチャラしている奴だと思っていたのに、意外な一面だ。  その後、谷山は朝霞に何か無理強いをしてくるわけでもなく、朝霞が驚くくらいスマートに、それこそ女性とのデートなのではないかと思うくらいの対応をしてくれた。  イタリアンを出た後に行ったバーの雰囲気も良くて、谷山が女にモテる理由がわかった気がした。  「時間、大丈夫ですか?送りましょうか?」  「いや、平気だ。お前がモテる理由がわかった気がしたよ」  時間を気にしてくれる谷山に朝霞は素直にそう言った。  「少なくとも、落第はしてないってことですか?」  「そういう事だ。じゃあ、また来週」  谷山に合格ラインってことですかね?と笑いながら言われて、朝霞はそうだ、と言って手を振った。  ――それにしても、この状況…。  谷山との食事、いやデートなるものを終えて自宅に帰ってきた朝霞は、先週からずっとこの状況が理解出来ずにいたものの、実際に出掛けてみると本当にデートみたいな雰囲気だったこともあり、不思議な気分だと感じていた。  遠山に惹かれつつも、年齢差の事もあるし社内の人間であるという事もあって、ただ行為を抱いているだけという状況だった。谷山の今日の感じを見ると完全に冗談だと言う印象を受けなかったものだから、何となく考えてしまったのだ。  今までずっとタチ側を担ってきたけれど、隣人の声を聞いて後孔に受け入れることに対する興味や受ける側になる事への興味が出てきてしまったから、谷山ならしてくれるのではないか、と一瞬思ってしまった。  かといって、あんな風に真摯に対応されてしまっては、谷山と同じ好きを返すことが出来ないのに、谷山を受け入れるというのは相手にとって失礼だろう。  だからと言って朝霞が思いを寄せている遠山相手だと、自分がタチ側になるのだろうから、そういうことは出来ないという事なのだ。  朝霞はこの期に及んでどちらか本当に選ぶのかどちらにも断るのか、本気で考えないといけないのではないか、と思えてきた。先週の段階では、二人とも口では本気だと言っているけれど、いつもの冗談の行き過ぎた感じのものなのか、と思っていたのだ。けれど、今日の感じで行くと少なくとも谷山に関して言えば、冗談ではなさそうだった。明日、遠山もあんな感じだったら、朝霞は選択を迫られることになる。  ――二人同時って…どうすりゃいいんだ…。

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