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第4話

 翌週の金曜日。  あの日、谷山と遠山に押し切られて、そのまま二人とデートなるものをすることになってしまった朝霞は、自宅に戻ってから散々この分けの分からない状況について考えた。考えたのだけれど、結局どうすべきかの答えも出なくて、翌週を迎えてしまったのだ。  その間も隣人の指示を守り、自慰行為を繰り返してしまっているのだから、自分はかなりの変態なのではないかと心配にさえなってきた。  会社の部下二人が本気なのかどうかはいまだつかみ切れていないが、キスされデートをするという、かなり意味不明な状況に陥っているにも関わらず、自慰行為にふけってしまったのだから。  とはいえ、そのおかげで難しく考えずに済んだという事も有るのかもしれない。とにかく、今日谷山と出かけて、明日遠山と出かけて、この二日間こなしさえすれば、いいのではないかという気分になってきた。  あの日は酒も入っていたし、いっそふんわりと見なかったことにしてしまえたら、普段の生活に戻ってしまおうと考えたのだ。  谷山は着替えてから会いましょう。と言い出して、七時を指定してきた。谷山は朝霞にも着替えて欲しいと言ってきたから、就業後慌てて自宅に戻り、着替えを済ませて待ち合わせの場所へと向かう。  ——着替えまでして、これじゃあ本当にデートみたいじゃないか…。  朝霞はデニムに、Tシャツ、薄手のジャケットというカジュアル過ぎない程度の服装を選んだ。谷山の気持ちはありがたいが、部下とそういう関係になるのもどうかと思うし、朝霞は谷山の事を恋愛対象としてみているわけではないからだ。 「すみません、待たせちゃいましたか?」  待ち合わせ場所に現れた谷山は、ブラウンのカラーデニムに淡いブルーのシャツというイタリア雑誌のようなファッションで、身長の高い谷山が着ると立っているだけでかなり様になっている。  遠山のように中性的な顔立ちではないが、谷山は男前だ。中世的な顔立ちが好きな朝霞でさえ、一瞬目を奪われてしまうほどだ。 「いや、今着いた。で、どうすればいいんだ?」  部下として見ていた相手と急にデートだとか言われても、どうしていいか分からない。今までも谷山とは二人で飲みに行ったことがあるのに、私服になって待ち合わせまでされたら、なんだか緊張してきてしまった。 「緊張しすぎですって。そういうとこがかわいい、とか言ったら怒ります?さ、行きますか」 「え、あ、谷山っ」  緊張している朝霞を見て谷山が笑う。かわいいなどでと言われて、朝霞は思わず俯いた。すると、谷山の手が朝霞の手を掴み、そのまま手を引いて歩きだしてしまう。大勢の人が行きかう中で、男同士で手をつなぐのはいかがなものなのだろう。正直言って恥ずかしすぎる。  朝霞は、そう感じていたが谷山は平気なようで朝霞を引っ張るようにして大通りから少しわき道に入ると、朝霞に歩調を合わせて始めた。 「手、繋ぐの苦手ですか?」 「男同士だから変に思われる」 「はは、課長、そういうの気にし過ぎなんじゃないですか?ま、嫌がる事はしたくないんで、離します」  手をつなぐのが嫌かと聞いてきた谷山に朝霞は思ったままを伝えた。手をつなぐことが嫌とかそういう事ではない。朝霞はゲイであることを周りに知られること自体が、嫌なのだ。  谷山は朝霞の言葉で、意味するところを理解したらしく、あっさりと朝霞の手を解放してくれた。

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