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第3話

 朝霞の問いに、谷山はあっさりとバイセクシャルだと言ってのけて、けん制するみたいに遠山に視線を送った。谷山に視線を向けられた遠山の方も口を開く。 「谷山さんも、なんですね。僕も、どっちもです。少し違うのは僕の場合、バイセクシャル、というよりはパンセクシャル。いいと思ったら性別問わずって感じなんですけどね。というわけで、僕も谷山さんと同じく本気、ですよ」  遠山まで同じような事を言い出して、混乱を理解するために落ち着いて話をしてみようと思った朝霞だったが、余計にパニックに陥ってきた。冗談の方がまだ処理が出来る。二人とも、本気だと言い出したのだから、どう処理を付けていいか分からなくなってしまった。  朝霞は頭を抱えて、ため息をついた。二人は堂々と、マイノリティだと言ってのけるが、朝霞にはそんなことを言い出す勇気はない。どうしたものかと思いつつ、朝霞が無言でいると谷山が何か思いついたらしい。 「課長、来週って週末何してます?」 「週末?金曜の夜と、土曜なら何も予定はないが…」  ――日曜は…な。  日曜日は隣人が話をする日だ。  それ以外に特に予定など入れていなかったものだから、朝霞は素直にそう答えた。 「じゃあ、俺と遠山、両方とデートしてみませんか?課長は、男はちょっとと思っているのかもしれないですけど、意外に楽しめるかもしれないでしょう?」 「楽しそうですね。順番、どうします?」 「おい、俺の意見は…」 「そうだな、金曜は俺。土曜はお前でどうだ?遠山、それくらい先輩に譲れ」 「…仕方無いですね。じゃあ、僕は土曜でいいですよ?」 「よし。決まりだな」  谷山と遠山は朝霞そっちのけで予定を話し合っている。朝霞は割って入ろうとしてみたが、二人の間でどんどん話が進んでしまった。 「ちょ、お前ら、ちょっと待て。俺の意見は後回しか!だいたい俺は、男とデートなんかしたくない!」  二人の話し合いが落ち着いたところで、朝霞はもう一度意見を述べた。会社の部下とデートっていったいどういう状況なのだろう。そもそも、朝霞はそんな許可を出してはいないのだ。ただ、何しているのかと聞かれたから答えただけだ。けれど、二人の間ではもう決定してしまったことの様で、谷山と遠山は朝霞を見て言った。 「ってわけで、課長、金曜の夜は俺と出かけましょう」 「土曜日は僕と、ですね。よろしくお願いします」  ――なんでだ…?  有無を言わさない勢いで、勝手に来週の予定を入れられて、朝霞はため息をつくしかなかった。本当に朝霞はストレートならば、男同士で飲みに行くくらいものだと思えばいいのかもしれないが、朝霞にとってこの状況は、本当にデートと言う感じになるのだから、緊張する。そんな朝霞の感情など、谷山と遠山はお構いなしに話を進めてしまった。 「あ、そろそろ帰ります?」 「そうだな。課長、帰りましょう?」 「…え?あ、ああ」  朝霞が処理不能に陥っている間に、谷山と遠山の二人が会計を済ませてしまったらしく、朝霞は支払いを申し出たが二人に「結構です」と言い切られてしまった。

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