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第2話
妙に距離の近くなった谷山に朝霞が言うと、へらへらと笑っていた谷山の表情が急に真面目な雰囲気へと変わる。横を向いた朝霞の目をじっと見ているのだ。谷山は普段から肩を組んできたりするタイプの人間だが、いつもとはかなり雰囲気が違う。
「好きだ、って言ったらどうします?俺が課長の事」
――……え?…なんて?
朝霞は一瞬谷山が何を言っているのか理解できなくて、無言のまま静止した。
――好き?…谷山が、俺を?
「…谷山…、お前、冗談が過ぎるぞ。…何を訳の分からないことを…んン……っ…」
状況を理解しようとした朝霞は、いつもふざけている谷山が朝霞を困らせるために冗談を言っているのだと判断した。谷山に何を言っているんだと言おうとしたのだが、朝霞の言葉は最後まで発せられることはなかった。
谷山の手が顎にかかり、朝霞はそのまま口付けられたのだ。ガラッとふすまの開く音がして、谷山は朝霞の唇を解放した。
「……何、…してるんですか?」
「課長、俺、結構本気なんですけど…」
朝霞の唇を離して言った谷山の声と、ふすまの前で朝霞と谷山の口づけを目撃して立ち尽くしている遠山の声が重なる。
朝霞の頭がこの状況を整理しようと必死で働く中、立ち尽くしていたはずの遠山が谷山とは反対の方へと進んできて、どうしたのだろうと思った時には、朝霞はもう遠山に唇を奪われていた。
「んっ…っ…ぅ…、…ちょ、ちょっと待て!お前らいったい何考えてるんだ!」
遠山の唇が離れた瞬間、朝霞は動揺のあまり声を荒げた。谷山だけでも驚いているのに、入ってきた遠山にまで口付けられて、朝霞の脳内の処理が追い付かない。
――なんなんだ、この状況はっっ…。
「谷山さんも、課長狙いだったんですね。谷山さんは、女の人が好きだと思ってたので、驚きました。でも、僕も譲るつもりはないですよ?」
朝霞を挟んで遠山が、谷山に向かって言った。谷山は空いたままになっていたふすまを閉めて、遠山に言い返す。
「へえ。遠山も、ねえ。俺も譲る気ないけど?」
二人に挟まれた朝霞は、部下二人に突然キスをされたことで、ただでさえ状況の理解が追い付いていないものだから、口をはさむことも出来ずに、ただ黙っている事しか出来ない。
谷山と遠山はお互い譲る気がないと言いあっているが、当事者である朝霞は置いてけぼりの状態だ。
「お、おい…、ちょっと一旦落ち着け。二人とも元の席に戻れ。俺から離れろ」
朝霞は、とりあえずこのよくわからない状況を理解しようと、自分の両側に座る二人に言った。朝霞の言葉に二人は不服そうにしてはいたものの、朝霞の前に座り直した。
「悪い、意味がよく分からないんだが…。谷山、お前は女が好きじゃなかったのか?…あと、遠山も、どういうことか説明しろ」
かなりの混乱をしていたものの、ここで崩すわけにはいかない。朝霞は目の前のグラスの飲み物を数口喉に流しこみ、深呼吸をしたうえで目の前の二人に問いかけた。朝霞の認識では谷山は女好き、遠山に関しては情報はよくわからないが、ストレートだと思い込んでいたからだ。二人とも、朝霞にこんなことをしてくるはずがないと思っていたのに、この状況は一体どういうことなのだろう。
「ああ、俺は基本女好きですよ。ただ、前にも言いましたけど、遠山や課長みたいに、顔が整っているなら、男もいけるというか。まあ、簡単に言うとバイセクシャル?ってことになるんですかね?なので、結構本気ですよ?」
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