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結人くんと明くん
ほとんどイタズラのレベルでうるさくピンポン鳴らして、はいはい、と最初から苦笑いでドアを開けて家の中に招き入れてくれた結人にニカッと笑った。
「ゆーとー、海行くよーうみー」
「……お前ね、会うなりそれって……」
「なんだよ行きたくないのかよ。いいよいいよじゃあ一人で行くから」
「っちょ、そんなこと言ってないでしょー?」
んもー、と呆れた顔して笑った結人が、頭をわしわし撫でてくる。
「行くの!? 行かないの!?」
そんな優しい手の平がこっ恥 ずかしくてわざとぶっきらぼうに喚いたら、行くに決まってるでしょと笑う結人が、やっぱり優しいから----なんか悔しい。
「なんだよ、いい子ぶっちゃってさ」
「何、いい子ぶるって」
「なんか……なんか、いつも結人ばっかズルイ」
「何が!?」
ズルイって何!? と驚いて笑った結人がオレの腕を引くから、呆気なくその胸に飛び込むはめになる。
「全く。何拗ねてんの、可愛いな」
「かわっ!? いくなんかないっ」
「ほら可愛い」
「~~っ、可愛くなんかないっ」
だしだし地団駄踏んだオレを、優しくて今にも蕩けそうな柔らかい目が見つめてくるから、オレの意地っ張りもうやむやになる。
むぅん、と結人の腕の中で大人しくしていたら、さわさわと腰の辺りを撫でてくる手のひら。
「…………行くんじゃないの、海」
「気が変わったって言ったら付き合ってくれる?」
優しい目のままで意地悪なこと聞かれてズルイと呟いたオレ自身、本当に海に行きたかったのか、ただ結人に会いたい口実で海を思い浮かべたのか分からなくなったのが不覚だった。
一瞬の隙をついて唇を塞ぎにきた結人のいつもより熱くて意地悪な舌が、オレをさらに惑わせる。
「海、行きたいの?」
「……いきたい」
「ホントに?」
「……ほんとに」
「……オレと、こういうことするより?」
「っ」
玄関の扉に両腕を掴んで押し付けられて、足の間に結人の足が割り込んできた。
まだ熱くないそこを、やわやわと膝でなぶられて泣きたくなる。
「いじわる」
「何言ってんの。可愛い明が悪いんだよ」
「っふ、ぅ」
押し付けられたままの玄関の扉は、夏の日差しを吸って熱くなっている。
だからこれは熱に浮かされたせい、なんて誰かに言い訳しながら、キスの合間に結人の背中にそっと腕を回した。
「…………ぅみ」
「ん?」
「あした、いこ」
「----全く。ホント可愛いよね」
全力の溜め息の後。
低くて色っぽい声で呟いた結人が耳を舌でなぞって、オレに耳の形を教えてくる。
「ッン、ぁ、やく、そくッ」
「はいはい。ホント好きだね、海。オレのことより好きなんじゃないの」
拗ねた声音が呟いた後に、何を着たって隠せない位置に唇で吸い付いた結人が、ピリッとした甘い痛みと痕を残して卑屈に笑うから。
きゅっと唇を噛んでグイッと結人の耳を引っ張ったら、すぅと息を吸って。
「ばっかじゃないの」
「……さすがに、ちっちゃい『つ』は傷付くよ?」
「ばっかじゃないの」
「あの、明くん?」
傷付くって言ってるよ? と嘆く結人の唇を奪って、色気もへったくれもないキスをしたら。
「結人と行くから楽しいんでしょっ」
言うだけ言ったら、驚いて声も出ないらしい結人が何か言う前に、もう一度唇を塞いでしまう。
「結人と一緒に行く海が好きなの!」
色気のない、ただ重ねる時間が長いだけのキスの後でそう叫んだら、くしゃっと笑った結人が困ったような嬉しそうな声で呟いた。
「ホント、可愛いんだから」
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