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シュウくんとヨウくんの場合

「あっつ~」  体育館の中にこだましたのは優希のぼやきではあるものの、恐らくはその場にいた全員が叫びたい一言だったに違いない。  入り口も窓も全開だが、いかんせん風が吹いていない。そよとも吹かない風を待ちわびながら、ふき出る汗を拭う努力は放棄するしかなくて。  汗のせいで体にまとわりつく練習着も、不快感を一層煽ってくる。  多少イライラしながら目に入りそうだった汗を振り払うように拭っていたら、すぃ、とシュウが近寄ってきた。 「ヨウ」 「ん~?」 「汗、拭いたら?」 「めんどくさい」 「……拭けって」 「やだよ。どーせまたすぐ汗かくんだから」  押し付けられたタオルをシュウに押し付け返したら、ムッとした顔のシュウに無理やり汗を拭かれてイライラした。 「なに!?」 「……………………透けてる」 「…………は?」 「だから。----服。透けてる、汗で」 「それがどうした」 「…………エロすぎるからマジで。誰にも見せんな」 「っな!?」  突然の独占欲に口をパクパクさせるしかないオレの肩に、大きめのタオルがかけられる。 「…………暑いんだけど」 「文句言うな。ヨウのエロいカッコ見ていいのはオレだけなんだから」 「…………」  反撃したいのに、真っ直ぐな目で見つめられたら何も言い返せなくて。  くそっ、と内心で舌打ちするけど、顔の熱さはたぶん----体育館の暑さのせいじゃないから悔しい。  不意にバヒュンと風を切る音がしたと思ったら、暑い暑いとぼやいてダラけていたはずの優希が、親の仇でも討つかのようなような勢いでラケットを振っている。 「……どしたんだ、急に……」 「……さあ?」  キョトンと呟いたオレとは裏腹に、何かを察しているらしいシュウは、どことなく気まずげながらも唇の端に優越感を滲ませていて。 「あ~、くっそ! あっついなぁホンマにィィィ」  イライラと叫んだ優希が何やら物凄い力で素振りを始めた理由は、結局オレにはよく分からなかった。

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