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第1話 魔力は体で感じるタイプです
うわっ……。
一瞬声がでてしまいそうになるのを必死でこらえる。
俺の肌の表面を撫でるように動き回る魔力は、今日も無遠慮に体中いたるところを蹂躙していた。
ともすれば際どいところを掠めるように触れる魔力に、嫌でも体は高められていき、俺は声や表情にそれを出さないようにひたすら耐えるばかりだ。
「ああ、いい出来だね。これならわずかな魔力を吹き込むだけでモーターの力が底上げされて、長時間稼働できそうだ」
俺が必死になって耐えているというのに、目の前に座る男はそんなことには何ひとつ気付いた様子もなく穏やかに微笑んで、俺の作った魔道具を褒めてくれる。
若くして王宮魔術室の最高位という名誉ある職についているこの男……チェイス室長は、絶大な魔力量を誇る稀代の魔術師として有名だ。
人好きのする優し気な風貌、ふわりとした柔らかなウェーヴの亜麻色の髪、銀縁のメガネ。どこをとっても穏やかな印象に違わず、性格もたいそう温和だと聞く。
怒鳴ったところなど見たことがない、常に部下の事を考えてくれる素晴らしい上司だ、王宮魔術師たちは口々にそう褒めるし、実際俺の工房に足繁く通ってくれる彼と交わされる会話は、表面上はいつだって優しく紳士的だ。
そう、表面上はな。
「そうっすか、なら……良かったっす」
なんとかそれだけを口にして、俺は自分の体を抱きしめて歯を食いしばった。
下手に口を開いたら、変な声が出そうで怖い。
俺はこのところ、このチェイス室長の魔力セクハラに毎回苦しめられていた。
表面上はいたって紳士的な人だというのに、いつの頃からかこうしてめちゃめちゃ体を触ってくるようになったんだ。と言っても、一般人には視認できない魔力で触ってくるんだから余計に質が悪い。
「ミジェが作った魔道具はもちろん性能もいいけれど、造形にもこだわりがあって美しいね」
好きだなぁ……と呟くように言って嬉しそうに俺を見て笑う目の前の男の邪気のなさと、俺の体をまさぐってくる魔力の容赦のなさに言いようのないギャップを感じながら、俺は過去に思いをはせた。
◇◇◇
最初は、頬を撫でられたような気がしただけだったんだ。
俺は魔力は体で感じるタイプだ。
目があんまりきかない代わりに、魔力に関しての触覚だけはべらぼうに高い。
耳を、髪を、睫毛を……まるでそよ風が通り抜けたみたいにふわりと魔力が撫でていく。気のせいかとも思ったけど、締め切った部屋の中、頻繁にそんなことが起きればおかしいな、と思うのが道理だ。
触れるか触れないかのごく浅い接触が何度も続くうち、そういえばチェイス室長が来てる時によく感じるよな、と思い当たった。
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