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第17話 【チェイス視点】目まぐるしい懊悩

「す、すまない!!!」 慌ててくるりと後ろを向く。 こんな目の毒なミジェを前に、妄想をとめられる気がしない。なんとか別のことを考えねば。 別のこと……。別のこと……。別のこと……! いや、無理だ。 退屈な会議でも思い出そうと思ったが、後ろから聞こえるミジェの吐息が艶かし過ぎて全神経が耳に集中してしまう。物理的に音を遮断するために、私は自身の頬をバシバシバシバシと滅多矢鱈に打ちまくった。 「!!!? チェイス室長……?」 ミジェのか細い声が、頬を打つ音に紛れて聞こえてくる。可愛い声を聴かせないでくれ。頬を打つ衝撃で、漸く脳内から至らぬ妄想を追い出せそうだというのに。 「な、なにしてんの……?」 「煩悩を追い払おうと努力している。本当にすまない……」 まさか自分の魔力がそんな不埒なことをしでかしてしまうだなんて考えたこともなかった。意識して動かしていたわけでもないものをどうやったら制御できるのか。私は途方に暮れた。 いや待てよ。 感触は残念ながらなかったが、ミジェの反応から察するに、さっき触りたいと念じたら触れたみたいだったじゃないか。 ということは、ミジェがさっき両手で自分の体を包んでいたように、魔力も自分に縛り付けるみたいな気持ちでいればいいのでは。 それならば少なくともミジェに迷惑をかけることはない筈。 無心……! 無心……! 無心……! 念じ続けること幾ばくか、背後から大きく息をつく音がした。 「やっと落ち着いてきた」 やはり効果があったのかミジェの少し掠れた声が聞こえるが、後ろを振り返っていいものかどうか、もはや私には分からない。 「あっ、いてっ」 椅子のガタっというこすれるような音と、鈍い重みのある音が何度かするものの、無心……! と私は念じ続ける。心配からだとしても触れるような念を持ちかねない自分が怖い。 私の魔力がついさっきまで彼の肌やち……触れてはならないところを思うままにまさぐっていたのだと考えると、もう彼の姿を見ることさえも冒涜なような気がして、私は動くことすら躊躇していた。 「あんたいつまで背ぇ向けてるつもり?」 ぶっきらぼうに、ミジェが言う。 「申し訳なくて顔が合わせられないよ。まさか自分の想念が、ミジェにこんな不埒な真似をしているとは考えてもいなかった。本当に申し訳ない……」 「急にしおらしいじゃん。とりあえず煩悩は追い払えたんだよな?」 「今は多分、とりあえず」 自信がないのが申し訳ない。だが、魔術に構築しているわけでもない魔力を、自分で制御できてるかどうかは甚だ怪しいのだ。

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